この手に指輪がある限り
2・[現れた男](1/6)
父さんはとっさに私を棚の影へ隠した。
私は怖くて動けない。
棚の影で大人しくしているしかなかった。
そして、そっ…と父さんが店の玄関を開ける音がした。
入ってきた田村グループ社長の代理人の足音が店の中に響く。
「こんにちは、春山龍二様」
とてもミステリアスな響きがある声だった。
頭の中に、静かに残る、魅力的な声。
気になった私は、見つからないように慎重に身を乗り出して、代理人を見た。
息を飲んだ。
美しい、黒だった。
白い肌に、焦げ茶色の髪と目。
それ以外は、何もかも真っ黒な男だった。
スーツも、靴も、バッグも…そして最も印象的でよく似合っているメガネのフレームまでが艶やかな黒でぬりかためられていた。
代理人なのにまるで社長の風格。
「たっ…大変申し訳ありません!指輪は、売れなくなってしまいました…………!」
その人に、父さんはいきなり土下座した。
どうしていいかわからなくて、私は棚の影で固まっていた。
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