ESCAPE
07[ ESCAPE](4/34)
(T)




 そして、学校までの石畳の歩道を歩く彼らの後ろ姿を見つけた。

「ちぇー! さっきのおっさん、高そうなスーツ着てたわりには、シケてんなぁ」

 生徒のうちの一人が、一万円札をぴらぴらとさせてボヤいているのが聞こえてきた。

 ――あの男から金を巻き上げたのか? と、その時初めて気付く。

 だけど、確証は無かった。

 彼らの会話を後ろで聞きながら、 俺は落胆していた。

 あの現場を見ていたし、今の会話も聞いていたのに、それ以上踏み込むのを理由を付けて避けようとする自分に。

 そうして、鈴宮伊織との最初の出会いは、最悪なイメージを残した。

 偶然にも自分の受け持つクラスだった彼は、今まで経験した事がないくらいに、扱いにくい生徒だった。

 人との関わりを避けるところがある彼に、無理に歩み寄る必要もない。問題さえ起こさないように見守るだけで良いと、前と同じように考えようとしていたけれど。

 それでも、あんな眼差しをする鈴宮のことが気になって、どうしても放っておくことが出来なかった。



 ******



 大谷が連絡してきた駅で降りて、教えられた通りの道を走っている間、嫌な予感ばかりが勝手に頭を過ぎる。

 最後にあの部屋で見た彼の状況からして、夜遅くに家の外に出るなん考えられない。……父親と何かあったんだろうか。

 大谷は、夏祭りで鈴宮が独りでフラフラと歩いているところを、いつも彼と一緒にいた上級生の一人、:井上隆司(いのうえ たかし)に無理やり引っ張られて、連れて行かれたと言っていた。

 もう一人、鈴宮といつも一緒にいた:速水凌(はやみ りょう)は、確か喫煙で停学になったと聞いている。

 しかし、大谷の言った場所は二人の住んでいる場所ではない。

 今ひとつ状況が掴めないから、余計に嫌な予感がしてくる。

 大谷が教えてくれた交差点を過ぎて、目印の郵便局が先に見えてくる。

 この辺りのはずだと、目を凝らして先を見やれば、街路樹の影で座り込んでいる大谷を見つけた。

 彼の視線の先は、道路を隔てた向こう側の黒っぽい建物。

「――大谷」

 駆け寄って声を掛けると、一瞬驚いた顔で振り向いた彼は、俺だと認識すると心底ホッとしたような顔をした。

「……先生、良かった来てくれて」



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