ESCAPE
07[ ESCAPE](16/34)
(T)



 ――え?

 言葉を失う。

 今、なんて言った?

 男が言ったハーブとは、植物片に化学物質を混ぜたり、染み込ませたりした、危険ドラッグのことなのか。

 さっき帰って行った男達の、普通ではない様子を思い出して、背筋が凍った。

「……あなたが、それを渡したんですか? 速水くんに?」

「仕方なかったんだよ」

 もう、怒りを抑える事など忘れて、身体は勝手に動き、拳を男の頬に目掛けて突き出した。

 だけど、呆気なく手首を取られて、怒りを男に打つけることは叶わない。

「先生が暴力なんてやめておけよ」

 掴まれた手首を押し戻されて言われた言葉に、何も言い返すことも出来なかった。

 今日ほど自分の無力さを情けないと思ったことはない。

「……とにかく……中に入れてくれないか」

 もう鈴宮だけでなく、部屋にいる二人のことが心配だった。

「いや、俺が伊織を連れ出すから、お前はここで待ってる方が良い」

「――でもっ」

 自動ドアへ近付こうとする俺の腕を、男に掴まれて引き止められてしまう。

「あのな、入り口も中も監視カメラがあるんだ」

 そう言われて、見上げれば、自動ドアの上にひとつカメラが取り付けられていた。

「別に構わない」

 そう言って、男の制止を振り切ろうとした。

 悪いことをしている訳じゃない、生徒を迎えに来ただけなんだから。

「バカ、一般人なんか入れたら俺が後でヤバいんだってば。だから頼むから言うことを聞いてくれ」

 ――必ず伊織を連れて来るから。と、男は真剣な眼差しを俺に向ける。

「……あなたは……鈴宮くんを知っているのか?」

 男が『伊織』と、鈴宮の名前を呼んだことが気になっていた。

「……ああ、凌さんがそう呼んでいたから、名前は知っている」

 男はぶっきらぼうにそう言うと、俺から目を逸らし、駅方面を指差した。

「この先にコンビニが一軒ある。先生はそこへ行ってミネラルウォーターと、あと、ビニール袋を買ってこい」

「……どうして?」

 意味が分からずに訊き返すと、男はあからさまに面倒そうな顔をした。

「もしも許容量以上に摂取していて、頭痛が酷かったり、気持ち悪くて吐き気が治らなかったら、水を多めに飲ませてやってくれ。ビニールは吐いた時用。あと……タクシー捕まえておけよ」



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