ESCAPE
02[愛執](16/38)





 遊歩道から、少し逸れた所に神社があるのを思い出した。 階段を登らないといけないけど、もしかしたら座れるかもしれない。

 花火を観るにも、良い場所な気がするから、あそこも人がいっぱいかもしれないけど。

 それでも、今の状況よりは、ましかもしれないと思って、菜摘ちゃんに提案してみた。


「…… 階段がキツいかもしれないけど、どうかな?」


 菜摘ちゃんは、少し考えていたけど、


「うん、そうだね。座れる所があったらいいな」と、僕の提案に賛成してくれた。


 かなり、足が辛いんだろうな。

 遊歩道の人混みを抜け出した道は、少しだけ空いていて、僕達はカップに山盛りのかき氷を食べながら歩いた。

 石畳の階段は、なだらかだけど、足が痛い菜摘ちゃんには、やっぱり少し辛そうだった。 その上、浴衣を着ているから、すごく上りにくそう。


「大丈夫?」


 本当にすごく大変そうだと、僕はただそう思っただけだったから…… だから気が付けば、ごく自然にそういう行動を取ってしまっていたのだけど……。


「…… え?」


 掴まるようにと、差し出した僕の手を、菜摘ちゃんが驚いて、じっと見てる。


「あ……、」


 菜摘ちゃんの驚いた顔を見て、漸く僕も自分の行動に気付いて驚いてしまったけれど……。


「…… あ、いや、歩き辛そうだから……。 あんまり変わらないかもだけど、転んだりしたら危ないし……」


 しどろもどろになりながら言った言い訳に顔が熱くなったけど、一度出してしまった手は今更引っ込められなくて。

 でも、そんな僕に、菜摘ちゃんがニコッと笑いかけてくれた。


「ありがとう」


 ふわりと僕の手に重ねられた、菜摘ちゃんの手のひらのぬくもりに、胸が急に速い鼓動を打ち始めた。

 白くて、小さくて、柔らかいその手を、力を入れ過ぎないようにそっと包むように握ると、菜摘ちゃんの顔も真っ赤に染まっていく。

 二人の心臓の鼓動が、手からお互いの身体に伝わっていくようで、菜摘ちゃんも僕と同じくらいドキドキしているのが分かった。

 もう殆ど溶けてしまっているかき氷をストローで吸いながら、僕たちは手を繋いでゆっくりと神社の階段を上って行った。

 レモンシロップで口の中がすごく甘ったるくて、余計に喉が渇いてしまったような気がした。



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