心臓に消えない痣を
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母が死んだ。まだ四十にもならなかった。






魔物のように美しい人だった。







私はその美しい人が人間だなんて思えなくて、

白くて脆い骨だけになったのがママだと言われて初めて、


あぁ、ママも人間だったんだ。なんて思ったんだ。









妹の都(みやこ)の瞳からほろほろと溢れる涙を拭ってやる。




私は泣けなかった。美しかった母が、わたしたちを本当に愛してくれていたのか、

今となっては分からない。










「都。・・・ちょっとだけあっちの部屋でいい子、できる?」









まだ小さい妹の視線に合わせ、頭を撫でてやりながらそう尋ねると

まだ粒の乗った瞳で、都はこくりと頷いた。






こんな時でも愚図ることなく言うことを聞いてくれる。この子は本当に良い子だ。歳の離れた妹に思う。








遠くで向こうの扉が閉まった音を聞いてから、私は目の前の男に向き直った。











「確かに、妹には聞かせたくない話だね。

・・・野菊」













母の恋人だったと名乗る、

明郷(あけさと)という男が。





金銭借用証明書。という紙を携えて、わたし達三人・・・二人の家にやって来たのは、







母の葬式が終わってすぐのことだった。

















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