りとるすとーりー  
今だけしか言えない。(1/1)








「大人になるのがこんなにも怖いと思わなかった」







そう言って体育座りでうずくまっている岸谷を横目で見て、何か言おうと開きかけていた口を二、三度動かせて閉じた。



自身の語彙力の無さに歯がゆく思う。





屋上の風は冷たい。








「・・・・・・まーっしろなーページをーえがくー」







ふと頭に浮かんだ合唱コンクールで歌った歌詞。
はて、続きは何だったか・・・・・・


黙っていると、岸谷の方からうずくまったままくっくっと小さく笑い声が聞こえた。







「なんだっけそれ、白いページ?」


「うん、合唱コンクールの」

「続きは?」

「覚えてない。」

「なんだそりゃ」








続きは確か“一粒の種を描こう”だよ、と顔をあげて言った。


泣きそうな顔を、している。









「この曲、今の俺の気持ちとかぶってるなぁ」

「あ、ごめん・・・・・・」

「なんだ、無意識かよ」

「うん」









ヒュウッと、風が吹いた。


手入れもせず伸びた髪がふわっと巻き上げられる。




何故だか、切なくなった。








「・・・・・・歌詞の、」

「え?」

「歌詞に出てくる“たおやかな未来”ってなんだろうね」








 まっ白なページがある

 たおやかな未来描こう










「大学、離れるけど・・・・・・」







岸谷は話している途中でまた膝に顔をうずめる。






あ、


鼻が痛くなってきた。

目頭も、熱い・・・・・・・―――









「いつでも、遊べるから・・・・・・だから」

「うん、連絡、するよ。」








 明日には大人になってしまう

 今日の自分を忘れずにいよう








「死ぬまで友達でいるから、大親友」

「大丈夫、日本は狭いよ」







会おうと思えばいつでも会えるし、
遊ぼうと思えばいつでも遊べる。


ただ『子ども』という枷から放たれるだけ。









「う、」






岸谷の肩が微かに震えていた。

感情表現豊かな岸谷が羨ましかった。





けれど今だけは、



きっと彼と同じ顔になっているだろう。








「う、・・・・・・―――ッ    」








一際、強い風が吹いた。





かき消されることの無いように。



あと少し子どもでいられる僕らは

その象徴を声高らかに、泣いた。








         END



 



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