私のカレはモデルでダメな彼氏です【高校生編】 -毎週更新-
[scene14 特訓](1/1)
次の日。
ユウとヤマトは、面接の合格通知をメールで受け取っていた。
やった…!
よかったね!2人とも!
なにはともあれ、ちょっと安心した。
でもこれからが勝負だね!
コンテストに向けて準備があるから、いつもの喫茶店に来て欲しいと、ユウから連絡があった。
準備って何だろう?
そもそも、コンテストで何をやるのだろうか?
モデルだから、ファッション対決や着こなし対決等をするのだろうか。
準備というからには、ユウはその辺りは既に調査済みということだろう。
やっぱり、モデルについて、かなり本気で考えているようだ。
約束の時間までまだ少しある。
喫茶店だけれど、ユウと会うんだから、ちょっとお洒落していこうかな…!
お昼過ぎ、日曜日だからか、喫茶店にはいつもよりお客さんが入っていた。
ユウは既に到着しており、1人でいつものアメリカンコーヒーを飲みながら、雑誌を読んでいた。
「早いな」
チラリと私の方を見て、すぐに雑誌に目を落とす。
ファッション雑誌を見ているらしい。
「ヤマトはまだみたいね」
「ああ、もうすぐ来るだろ」
私もいつものココアを頼む。
今日は売上を稼ぐ日なのか、アルバイトが2人いて、愛想よくココアを運んで来てくれた。
「コンテストって何をするのかな?」
「パフォーマンスだ」
「パフォーマンス?」
思わずやまびこのように聞き返してしまった。
何かを披露するのだろうか…?
「指定された服を着て、ウォーキングをする」
雑誌から少しも目をそらさずに回答するユウ。
私のファッションには全く興味がないらしい…。
「本当のモデルみたいね!」
「そう。素人らしく何も準備しないでぶつかってもいいが、対策をした方が絶対にいい」
それはそうだけれど、何か方法でもあるのだろうか…?
2人で会話をしていると、不意に席に1人混じった。
「お待たせ!」
ヤマトが到着。
部活の後らしく、部活用具の入ったバッグを持っている。
軽く運動した後のこの爽やかな笑顔は、ヤマトにしか出来ない。
「行こうぜ!」
「ああ」
唐突に言い合うヤマトとユウ。
どこに!?
まだ全然ココアを飲んでいないのに…!
支払いを済ませた後、訳の分からないまま、2人の後を追う。
「ちょっと待ってよ!どこに行くの?」
「あれ?サオリちゃん聞いてないの?春日トレーニングジムだよ」
春日トレーニングジム…?
確かヤマトの親戚が経営しているジムだ。
「俺のオバチャンはスポーツ全般に詳しいから、ウォーキングとかいい方法があるかもしれないから、聞いてみようと思って」
ウォーキングは確かにスポーツだけれど、モデルのウォーキングはちょっと違うんじゃないだろうか…?
「とにかくやってみる価値のありそうなものは、全部やってみる。それでダメなら、仕方ないさ」
決意じみた発言のユウ。
ヤマトの親戚がジムを経営しているなんて、すごい奇跡。
どんな人が知らないけれど、これに賭けてみるしかないのね!
「時間はあまり取れないみたいだから、早く行こうぜ」
3人は急いでジムに向かった。
喫茶店から駅に向かって徒歩5分ぐらいのところにジムはあった。
ビルのテナントの一室にジムはあり、中にはトレーニングしている人がたくさんいた。
ヤマトに“オバチャン”と愛称で呼ばれていた人は、すらっとした赤いジャージに身を包み、化粧はほとんどされていないのに若く見え、“オバチャン”と呼ばれるのには不相応であった。30代前半に見える。
「こんにちは。あら?彼女?」
「え?いや、違うよオバチャン!」
ヤマトは必要以上に狼狽えた。
からかいなのか本気なのか分からないけれど、ヤマトと親しい人であることは確かだ。
ユウは全く聞こえなかったように、無反応だった。
「そうなの?ヤマトも早く可愛い彼女見つけなよ」
「そんなのいいから、早くウォーキング教えてよ!」
「分かってるって。ちょっとからかっただけじゃないの。更衣室で着替えてきな」
「よろしくお願いします」
ユウは“オバチャン”に一礼すると、着替えに更衣室へ向かった。
2人が着替えに行った後、“オバチャン”は手持ち無沙汰の私に話しかけてきた。
「ヤマトくんとはどういう関係なの?」
やっぱりあの質問は半分本気だったらしい。
「…友達です」
「本当?まあ、いいけど。あの子、昔からすぐ顔に出るから分かるのよ。これからも仲良くしてあげてね」
「…はい」
本当に友達なんだけれど…。
でもこの“オバチャン”、根は良い人なのかもしれない。
5分後、ジャージに着替えた2人が戻ってきた。
「歩き方の基本は、まずは姿勢からよ!」
トレーニングが始まった。
私はジムの待合室に通され、そこからジム内の3人を見ていた。
ひたすら歩き方を学ぶ2人。
真剣だ。
ジャージだけれど、歩く姿はモデルそのものだった。
“オバチャン”も2人につきっきりでトレーニングした。
1時間後、私はジム内に案内された。
今日はこれで終わりらしい。
「2人とも、いい線してるよ。トレーニングし甲斐があるね!」
「いや、結構きついよ」
ヤマトが本当にきつそうな顔して言った。スポーツマンのヤマトできついなら、ユウなんてもっときついだろう。
そう思ったけれど、案外大丈夫そうな感じのユウ。
「明日からも来なよ!ジムが終わるまでの1時間くらいなら相手してもいいよ」
「分かった!ありがとう!」
2人は着替え終わって、ジムの外に出た。
「あのオバチャン、結構できるね」
ユウは関心したように言った。
「ジムを経営する前は、トレーナーとして色々経験したって言ってたよ。モデルの芸能人も指導したことあるって」
なるほど。
それを早く言って欲しい。
「来週も通おうぜ!あと1週間で習得しないと!」
「そうだな」
いつになく真剣なユウとヤマト。
あと1週間…。
頑張って、2人とも!
駅でヤマトと別れ、ユウと2人で帰る。
17時を過ぎて、夕日が落ちかけている。
ビルの間から差し込む夕日に、時間の経過を感じざるを得ない。
さっきのトレーニングで疲れたのか、いつも以上に無口のユウ。
「今日は大変だったね」
少し話しかけてみる。
ユウが振り返って、返事が来る。
「今日は悪かったな」
突然謝るユウ。
「何のこと?」
「いや、連れ回してしまって」
本気で申し訳ないという感じのユウ。
確かに私にとっては全く関係のない1日だったけれど、一緒にいられて楽しかったのは事実だ。
「全然大丈夫だよ。ユウとヤマトが頑張ってる姿見れてよかったよ」
「そうか」
何かを考えているユウ。
ユウが何かを考えているとき、視線が固まる。
「アイス奢ってあげるよ」
「やったー!」
嬉しくて飛び上がった勢いで、腕を掴む。
またユウは無反応。嫌ではないらしい。
「これでお相子な」
ユウが少し笑顔になった。
私のお洒落をスルーしたのも、これで許してあげようかな。
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