私のカレはモデルでダメな彼氏です【高校生編】 -毎週更新-
[scene10 出待ち](1/1)


19時、東京、渋谷。

街の活気は衰えず、若者達で溢れている。

片手にクレープを持つ女子、腕を組まれる男子。

渋谷はどちらかというと女子の街で、男子に用事はない。

彼氏と手を繋いで渋谷デートは、デートの定番だし、女子なら一度はしてみたいと思うはず。

「20時からryu-ryuという雑貨屋で撮影予定…か」

一方で、私のカレはそんなことには全くお構いなしで、探偵のように他人のスケジュールをチェックし、確認していた。
これが目的なんだから仕方ないか。

「ryu-ryuならこの近くだよ!」

渋谷の土地は、大して詳しくないけれど、ryu-ryuは有名で、誰もが知っていた。

「よし!行ってみよう!」

段々ユウが活き活きしてきた。
こんな活動的なユウを見るのは、何年ぶりだろうか。


ユウの昔話…


私が知っているのは、小学4年生のとき。

2年に1度のクラス替えで、偶然一緒のクラスになった。

当時から、小さな子供らしくなく、どこか陰のある少年で、みんなからも距離を置いていた。

私と仲良くなるきっかけは、動物係を一緒にやった時だった。

小学校ではウサギを飼っており、4年生が1年間お世話をするという決まりになっていた。

そこで、約3ヶ月、ユウと一緒にウサギのお世話をする係に、クラスで任命された。

別にやりたかったわけでもなく、くじ引きで決まったこの係は、私は最初こそやっていたけれど、途中からサボり気味になっていた。

それに対してユウは毎日ウサギのお世話をちゃんとやり、飼育場まで綺麗に掃除して、先生からも評判がよかった。

「ユウ君って動物が好きなんだね」

ユウとの初めての会話が、それだった気がする。
それまでユウは、他の人と同じように、私に対しても距離を置き、会話らしい会話をしていなかった。

「別に好きじゃないよ。こいつらは、僕達がお世話しないと、死んでしまうとても弱い存在なんだ。僕はそういうのを見ると、何かしてあげたくなるだけだよ」

何も考えてなさそうなユウが、こんな気持ちでウサギと接していたなんて、驚きだった。

優しい人なんだな…。

そう思ったときから、私はユウに惹かれていたのかもしれない…。


「ryu-ryuあったぞ!」

私が昔の思い出に浸っている間に、ユウは目的の建物を見つけたらしかった。

活き活きとしたその目は、昔のユウそのままに、私の瞳に映った。

ryu-ryuはさすが渋谷の有名店、外装も内装も全て凝っており、オシャレな雰囲気のある雑貨店だった。

店内は、ちょうど撮影中らしく、遠藤マサト目当ての女子なのか、店頭でたくさんひしめき合っていた。50人ぐらいはいるんじゃないだろうか。

「すごい人気だな」

「読者モデルってこんなに人気あるんだね」

二人は遠くから、半ば唖然とその状況を見ていた。

ポーズをとるマサト。スタッフと打合せするマサト。
全ての行動を、お構いなしにスマホのカメラで撮影する。
これはちょっとしたファンではなく、かなりディープなファンが多いということなのだろうか。
マサトはたまに振り返って、ファンに手を振る。その度に黄色い歓声で盛り上がる。

ユウも読者モデルになったら、こんな風になってしまうのだろうか…。

「ねぇ、ユウ。こんな状況で出待ちなんて出来るの?」

ふとユウを見ると、ユウは何かを考えている様子だった。

「確かにファンが多くて、出待ちするファンも多そうだな」

マサトをみくびっていたわけではないけれど、ただの読者モデルが、ただの平日の撮影で、こんなにファンが駆けつけるなんて思ってもみなかった。

時計は21時を指す。

撮影はまだ続くらしかった。

ファンはマサトのスマホ撮影に夢中で、誰一人として帰らない。

ryu-ryuは22時閉店だからあと1時間は撮影するということだろうか。
そこから出待ちをするとなると、一体何時に帰ることになるのだろう…。

そんな心配をしていると、ユウは一人で、撮影現場の近くに立っていたスーツ姿の男に話しかけていた。

たぶん撮影スタッフの一員なんだろうけど、なんて大胆な行動!

二人に近づいてみると、ユウはその男性に、自分を売り込んでいた。

もしかして、マサトのマネージャーなのではないか。

スラリとした黒いスーツに、黒い革靴。
まさにザ・営業スタイルだ。

「君はまだ高校生なのに、マネージャーの私に声をかけるなんて、いいカンしているな」

マサトのマネージャーということは、トニー事務所の社員ということ。

「ありがとうございます。僕は絶対にマサトさんみたいになりたいんです!」

必死に懇願している。
たぶんそんなことは嘘なんだろうけれど、こうでも言わないと相手にしてくれないだろう。

「わかった。書類は預かっておくよ。君はなかなかのイケメンだし、友達の分まで渡してあげるなんて、優しいじゃないか」

何故かマネージャーから褒められるユウ。

ユウは自分のアピールポイントをまとめた資料と一緒に、ヤマトの分まで持ってきてマネージャーに渡したのだった。

「宜しくお願いします」

ユウはぺこりと頭を下げ、小走りにryu-ryuから立ち去った。
私も慌ててそれに続く。

そのマネージャーは、受け取った書類を小脇に挟み、マサトの様子を見ていた。



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