少女遊戯
[二](1/4)
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 世の中とは全くを以て未知である。
 知らない事斗りが渦巻く現世では、近縁の者さえ未知である。
 夕子にとっても例外ではなかった。

 昼前、緩い陽射しに身を晒しながら、夕子は一晩共に眠った紅い日記を眺め、幼少の禁忌に満ちた一時を思い出す。

 夕子の父は警察官として公務を全うしてきた。刑事部の一員として長年、重犯罪の捜査を行い、必ず犯人を法廷へ引き摺りあげた。
 家庭に仕事の話は一切無く、捜査山場の父は冷徹で鋭利な眼光を放ち、親の優しさ等微塵もないまるで鬼の様な空気を纏った。
 其れ故に夕子は、父の仕事に並々ならぬ異質の感を抱いていた。
 其れは恐怖ともとれたが、夕子にとっては、其れ以上に興味をそそる対象であった。

 巷で話題になる通り魔、強盗、猟奇殺人、小学生高学年位なら噂するであろう行き摺りや男女仲の縺れでの殺し、心中、自殺。
 父は其の醜悪な結末と真実を解く仕事を行っているに違いなかった。
 だからこそ父も母も、幼い自分を警察官の仕事から遠ざけたのだ、と夕子は考えていた。
 然しながら、遠ざけられれば遠ざけられる程、幼い夕子の執着は深まる斗りであった。

 必然と言って良い。夕子は惹かれるが侭に、極自然に父の禁断的事実と出逢った事がある。

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