仮面の下でキスをする
[それぞれの歯車](1/12)
ポーン??ポーン?????ポーン
自宅にピアノの音が響く。
「…?」
その音のする場所、サロンを覗く
グランドピアノの調律をしている様だ。
律がピアノを辞めて以来、主を失った白のグランドピアノが日の目を見るのは久々のことだった。
「何で今さら調律なの?」
そばにいた母親の冴子に問う。
冴子は律の言葉にふふっと力ない笑顔で返す。
「なぜかしら?…お父さんが
??お願いしたみたいよ?」
「…ふーん」
調律をしたところで、弾き手がいない。
凌がいれば気まぐれに弾いているかもしれないが、わざわざ自宅に戻ってピアノを弾くほど、凌もピアノに熱があるわけではない。
「奥様、終わりました」
「ありがとうございます」
調律師に深々とお辞儀をする冴子は細身で、どことなく頼りない。
律が物心着いた時から母親は常に一歩後ろにいた。
「律くん、弾いてみる?
???調律したばかりできっと気持
???ちがいいわよ?」
「…いいよ。弾かない」
そう言って微笑む冴子に、苦笑した。
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