血と夜と月と、
[紅](1/19)








ーーーーーー
ーーーーーーー





伊東はあれから
何も変わらない。


悪い意味でな。



苛つくを通り越して
ただ気持ち悪い。





まぁ…そんな悪いことだらけ
というわけでもない。



至る所で
紅葉を見れる季節となった。



屯所の庭も地面を

紅の葉が埋め尽くしている。





夏の新緑も美しいが

私は秋の紅色の方がいっそう
美しく思える。






庭を眺めながら
茶を飲んでいるところに
豊玉と子猫三匹が現れる。



私に気づくと豊玉は
私の膝の上にのり、
子猫たちはそのまわりに
寝る。





「おや、先客がいましたか」



「山南さん」






山南さんは目を細めて笑うと

私の隣に座った。





「…綺麗ですね」



「ええ。でも毎日みていると少し虚しくなってきますね」





何せ私暇なものですから、
と山南さんはつけたす。





「右手を怪我して…私は剣を握れなくなった。なのにどうして私はここにいるのでしょうね」





私はなにも言えない。





山南さんの気持ちは私は
痛いほどわかる。

いや…わかったふりを
しているだけなのかもしれぬが。




武士として、
1人の人間としての

"誇り"を失ったときの気持ち。




「剣を握れない私は不要なのに…何故…」





でも、


ただひとつ私には
言えることがある。




「…それを言って同情してもらいたいのですか」


「…っ!!?私は…!」


「…山南さんが必要だと、言って欲しかったからですか」


「…蒼さん、」


「…あたりまえですよ。貴方は新撰組に必要だ。剣だけでなくその頭脳も貴方にはある」






ぎりっと歯がこすれる音が

隣から聞こえた。






「何をそのように心配することがあります」



「…っ…ふふ…その通りでしたね」





立ち上がった山南の目には
涙が溜まっていた。


だが、山南はそれを
零すことなく微笑った。




「…蒼さんを見ていると悔しくなりますね」



「左様ですか」



「…ええ。では」







山南さんが言った


悔しい


の意味は私には分かる。





私も山南さんと変わらない
のだから。




女だと暴露てしまったら



私の居場所はないから。




でも、


だからこそ私は


私にしかできないことを


遂げるのみだ。










- 129 -

前n[*][#]次n
/410 n

⇒しおり挿入


⇒作品レビュー
⇒モバスペBook

[編集]

[←戻る]