血と夜と月と、
[訪問者](1/14)











それは…総司と共に
巡察に行っていた時のこと。




「…う、…っわぁ…っ」




隣の総司が私の影に
隠れたのだ。


おい、なんなんだ。


というか私の方が明らかに
身長が小さい故、
隠れていないのだが。


尻も頭も隠れてないぞ。




「…なんなんだ?」


「いいからっ」


「お、沖田組長…?」





隊士たちも一体どんなに
恐ろしい敵を見つけたのかと
ざわつき

殺気がこもる。


が、


総司には殺気などなかった。




「なんなんだ一体。早く言え」





びよーん。




頬をつねるとそんな音がした。





「…ひはひ…はおひゃんひはひ」



訳)痛い。蒼ちゃん痛い。





仕方なく離してやると
その理由がわかった。




前方に


「土方副長!!」



と…



両脇に…女子…?



副長がもてることは
重々承知だが…



両脇に連れているとは…。



しかも片方は腕を組んでいる。




そしてなにより、


美人、だ。




声をかけてはまずかったか。

いやしかしもう手遅れだ。





「おう、蒼」

「あらっ!この子が蒼ちゃん!?やだぁトシちゃんったらやるぅ〜」

「やめろって!その呼び方!」

「いいじゃなぁい?ト・シちゃん」





と、トシちゃん…?


なんとも愛くるしい
呼び名だな。




というか、

それより誰なのか。




「…ちょっと総司!隠れてないで姉に挨拶でもしたらどうなの」



副長と腕を組んでいない方が
総司に言った。


姉…?


あね、姐?アネ?


姉っ!!!?




「総司の姉上殿か!?」



道理で美人なはずだ。



「はぁ…そうだよ。こんにちは姉さん」


「もう。あんたの好きな甘味持ってきてあげたんだから。感謝しなさいよ?」


「ちょっ、それって本当!?ありがとう姉さん!」


「はいはい」





ふふっ、と綺麗な笑顔で
品良く笑うその人は

愛しそうに総司を撫でた。






「あ、蒼ちゃん、よね?私、総司の姉のみつです。…女同士仲良くしましょ?」



こそっと耳元でそう言って
優しく微笑んだ。




何故だろう。


安心、したんだ。



やはり女1人だと
気づいていなくても
思い悩んでいることが
あるからなのか…


話せる相手が
いなかったからなのか。



自然と私も頬がゆるんだ。




「あ、私は歳三の姉ののぶです。よろしくね」


「はい」




どうやら二人は副長に
様子を見に行きたいと言われ
断ったものの
屯所には泊まらず親戚の所に
泊めてもらうから

と言い張って聞かないので
来てもらったらしい。




だが、
嬉しかったのだろうな。


副長にとっても…


隠れていたが総司に
とっても。



「屯所来てもあんま騒がないでくれよ」

「わかってるわよ〜。さっきからそればっかりじゃないの」

「それで総司はちゃんとやってる?」



「あぁ。ちゃんと働いてくれてるよ」



副長は総司の方を見ないまま
そう言った。




「やだわっ!てれちゃって。可愛いんだからトシちゃんはっ」

「姉さんちょっとそういうのやめてよね〜」

「あらいいじゃない!久しぶりなのよ?」




わいわい騒いでいる四人を見て
自然と笑える。



「ごめんな、こんな姉で」

「いえ、楽しいです」

「…そうか」




副長が目を細めて
私の髪を撫でた。





「…ちょっ、擽ったいです」



「あー!!土方さんなにやってくれちゃってんですか!」

「あらトシちゃん!だめよっ、蒼ちゃんに手を出しては!こんな純粋な子そういないわ!」





総司とおのぶさんに
せめられている副長を

おみつさんと見守りながら
屯所に戻った。









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