足許照らす君の歌

13この関係は白縹に咲く(1/27)






Side




最近、何も聴こえない。



何も降って来ない、ってことは、
何も感じてないってことなのか?


特に何に心を動かされることもない。

あれから、ステージに上がるための練習にも身が入らない。



ただ、大きく心を乱すのは




「おはよう。いい天気だね」

今日は泊めないから出てって」

「つめたーい」


杏奈の存在。


「前はあんなに優しかったのに」


そうやって笑う彼女。

淹れてくれたコーヒーはありふれた味で。
美咲さんが淹れた紅茶の味を忘れそう、っていう事実も相俟って苦い。


なんて。


困ったことに、こういうどうしようもない詩的表現ならいくらでも思い付く。

綺麗な言葉を選びさえすれば共感をしてもらえたりもするんだろうけど、どれもどうでもいい独り言に成り下がっていて陳腐だ。



杏奈の中に、美咲さんを探すな。



思い出すのは、俺の音楽が好きですと笑う美咲さんの笑顔。


あんなに俺の音楽が好きだと言葉にしてくれたのに。

もう今は音楽を奏でる手が震えてしまうんだ。


きっとこんな俺を見たら、
ガッカリしてしまう。

じゃあ、俺の事を見なくなればいい。


このまま自然と合わなくなれば
気を持たすような事しておいて、看病もした恩も返さず掌を返したように「歌を聴きに来るな」と冷たく接してきた失礼な奴がいたけど、もうどうでもいい、って

そうやってきっと忘れていく。


彼女も俺も、きっと。





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