◆痛みの違い (1/1)
それぞれが胸に秘めたもの。それでもぶつかり合ってしまう悲しさ。
何か見える…
建物…?
まさか…出口?
私は急いで皆がいるテントに向かった。
香里奈「エリ!!ここの草道の先に何か建物みたいなのが見えるの!!!早く来て!!!」
エリ「香里奈……建物?」
降りしきっていた雨もやみ,私の掛け声とともに皆が外に出てきた。
健太「たしかに建物みたいだな…。」
高梨「あそこに何が…。またあの何もない村かも…。」
香里奈「いや…絶対に違うよ。あそこにはきっと何かあるはず。出口につながる場所かもしれないし。何かヒントもあるかも!!」
【あの人が言ってた事が確かなら…】
ハキム「デモ…ダレガイク…?」
その一言で…
高まった期待も消えて…
皆の表情が固まった。
そうだよね…
エリ「あの場所までの道に…また罠があるかもしれない。」
高梨「そうですよ…。もう死人が出るのは…。」
高梨がそう言うと,急にあの男が得意げな顔で話し出したんだ。
健太「わかった。きっとここでグダグダ口論してても仕方がない。俺が行く人間を決める。」
香里奈「は…?」
突然の言葉に空気が止まる。
なんであんたが…
健太「遥がいなくなって,俺達のリーダー的存在はいない。という事は…誰かが皆をまとめる必要がある。仲間割れして無駄に日にちを過ごしたくないからね。」
香里奈「何,勝手な事言ってんの!?」
健太「今から俺がリーダーになる。男性陣は全員賛成してくれた。舞は情緒不安で考えられないだろうが…お前らは異存ないよな?」
賛成した…?
まさか…
香里奈「高梨……。」
高梨「香里奈さん…ごめんなさい。」
あの馬鹿…
健太「そういう事だ。じゃあ…1番勇気がありそうな……エリ!!エリに行ってもらうか…。お前は遥の所まで行けたからな。」
香里奈「は!?あんた…何言ってるかわかってるの!?遥さんが死んだばかりなんだよ!!!しかも,あんたが行かせたんじゃない!!!よくそんな事が平気で言えるよね!!!行くならあんたが行きなよ!!!」
健太「おいおい…またお前か。俺はただ自分の意見を言ったまでだ。行くか行かないかはあいつが判断する事で,俺は無理矢理行かせてはいない。だから…俺には責任はない!!!」
私は怒りが止まらなくなっていく…
香里奈「責任はない?ふざけた事言ってんじゃないよ!!!あんたが殺したんだよ!!!」
エリ「………。」
健太「じゃあ…お前は遥を止めようとしたのか?お前だって見てるだけだったろ?それに遥がこの安全な道を作っていなければ,皆死んでたっておかしくはないんだ。俺だけ責任を押し付けるのはおかしいな話だろ!!!ガキがわかったような口をききやがって!!!途中から入ってきて調子にのるのもいい加減にしろ!!!」
そう言うとあいつは私の顔を強くぶったんだ…
香里奈「!!!」
私は急な痛みに手で頬をおさえた…
…………………………………………………
ある日の夜…
私がいつものように金になる男を連れ込んで,バイトをしてる時に起きたんだ。
[ガチャ…]
ホテルの部屋のドアが開き…突然現れた母親の姿に動揺する私…
母親「香里奈…ここで何やってるの?」
それでも私は母親を睨みつけながら言ったんだ。
香里奈「あんたには関係ない。だいたい何でここがわかったの?」
「えっ…君のお母さん…?マズいよ…。」
母親「未成年にこんな事していいと思ってるの?警察に連絡するから。」
「いや…本当にすみません!!!間違いなんです!!!彼女に誘われて…しかたなく…。と,とにかく…失礼します。」
そういうと中年の男は逃げる様にして部屋から出ていった。
香里奈「もう最低…。つけてたんだ…。」
母親「何が最低よ!!!こんな事をしてるあなたの方がよっぽど最低よ!!!」
そう言うと…
お母さんは私の顔を強くぶったんだ…
その痛さで…
私は心と体の両方が傷ついていた。
香里奈「な,何すんのよ!!!お母さんには関係ない事でしょ?私は好きに生きたいの!!!自由になりたいの!!!縛られる生き方なんてしたくない!!!だから自分でお金も稼いでる。それの何処がいけない訳!?」
視線が向かい合う先に親子の絆なんて見えなかった…
いや…
ただ,自分で消し去っていたのかもしれない。
母親「お父さんがこんな香里奈を見たら悲しむわね…。」
香里奈「なにが父親よ!!!家にいたことすらないのに父親っていえるの!?」
母親「お父さんの気持ちなんてあなたにはわからない…。もう勝手に生きなさい…お母さんはもう知らないから。でも,自分の体を汚してまで自由に生きる意味なんてないわ…。いずれあなたは後悔して生きなきゃいけなくなる。自由は…そういう意味じゃないのよ。」
綺麗事ばっかり!!!
だから嫌いなんだ!!!
こんな大人が!!!
香里奈「もう出てってよ!!!あんたの顔なんて見たくない!!!さよなら!!!」
涙を流しながら叫んだ私の言葉…
本当は自分でもわかっていた。
きっとあの時……
【助けて…】
そう…言いたかったのかもしれない。
本当に馬鹿だよね…私。
それからの私は家に帰る事もなくなり…
抜け出せない毎日の中で体を売りながら,居場所を求めていくようになる。
それが自由だと信じ続けて…
…………………………………………………
なんで今,こんな事を思い出すの…
なぜか私はぶたれた痛さが違う事に気づいていた。
あの時のお母さんがぶった痛さと…
舞 「そんな事しないで!!!どうしてそうやって男の人は気に入らないと何でも力で捩じ伏せ様とするの!?あなたが遥さんを殺したんだ!!!あなたが全部悪いんだよ!!!私の大切な人を殺したのはあなただよ!!!」
健太「お前…もしかしてレズなのか(笑)」
彼女が突然テントから出てきてそう言うと…最低な返事を聞いて,あいつの体を両手で強く突き飛ばした。
健太「お,お前ぇぇーー!!!」
高梨「健太さん!!もうやめて下さい!!!」
怒りに満ちたあいつを高梨が必死に止める…
なんでこんな奴が存在してるの…
マジでわかんないよ。
香里奈「あんた…本当に最低だよ…。」
こんな汚い大人が存在するから…
勘違いするんだよ…
きっと…
―――――――――――――――――――
私はもう見ていられなかった…
こんな風になるために遥さんは自分の命を捨てたわけじゃないのに…
悲しくなったんだ。
そんな光景を見て…
エリ「もう…こんな無駄な事やめよ…。遥さんだって望んでないよ。」
高梨「そうですよ!!今はここで言い争ってる場合じゃないと思います。皆で脱出する方法を考える事が先なはずです。」
健太「クソッ………。」
舞 「………。」
香里奈「じゃあ…どうするの?」
そうだよ…
きっと,遥さんなら皆のために進むはず。
こんな時こそ,安全な道を選んじゃいけない。
自分よりも大切なものを知るには…
エリ「私が行くから…。」
私は前を向いて皆にそう言ったんだ。
変われる自分を信じて…
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