七色物語
○[緑×藍](2/30)
ユーリアとウルフの章
「よかった!」

男の子が目をこすって、
じっとわたしを見つめた。
ピントが合わないのかしら。

「……」

「…………」

えっ、と……、
どうしましょう。
このような沈黙、
一番辛い状況。

どうすればいいのか
わからなくてただ
視線を泳がせていると
男の子が私にしか
聞こえないような、
小さくて低い声で言った。

「ありがとう」

そして、男の子は
立ち上がろうとして、
うっとうめいた。

「まだだめよ。
傷が大きすぎる」

「……悪いな」

「全然」


真っ黒い髪に少し
隠れ気味の目は
すごく不思議な色を
している。
吸い込まれてしまいそう。
あちこち傷だらけで
服も破けていた。

男の子が、
思い出したように
何かを言った。

「ウルフ」

「……へっ?」

「お前は?」

ああ……、
名前だったのね。

あたしは笑顔をつくって
ユーリア、と名乗った。

「お前も……、光の勇者?」

「ええ」

男の子はふわっと
力が抜けたように
笑ってくれた。

なんかとても
安心する笑顔……。

「会えてよかった」

「……っ」

眠そうな上目遣いで、
つぶやくような
低い声で言われて、
人間に会えたときの
あったかさではなく
また別の気持ちが
きゅっと動いたような
気がした。

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