ぼくの住処
◎[総員、心してかかれ](1/23)

――

午前11時45分ごろ―。
茶華道部の花形部員であり五六月の会員である京橋の護衛として傍に控えていた俺の携帯が震えた。
着信を知らせる画面には実兄の名前があった。
俺の隣にひっそりと身を隠すようにして立ちサッカー部の企画・ストラックアウトの模様に真剣な眼差しを送る京橋をちらりと伺った。
特に許可を取る必要も感じなかったのでその場で通話ボタンを押す。

「―はい。」
『輩に動きがあったみたいだ。人混みのどさくさで山村を拐おうとしたところを同行していた須崎が奪還に成功。Aまで無事逃げ込み斎木、蒼葉の両名に輩を引き継がせる所までは予定通り。現在Bに向かっている。お前は真倉と連携し、残りの輩の陽動に尽力しろ。』
「了解しました。」
『正門で見張っているが未だ黒幕の姿は現れない。が、気を抜くな正々堂々と正面から来る可能性は低い。ぐるりと鉄柵で取り囲まれていると思っても穴は幾らでもある。』
「了解です。」
短い会話を終了させて通話を切る。
実兄との事務的な会話には慣れていた。
だからこれ程短く言葉少なな会話でも彼が俺にどんな判断を求めていてどんな行動をすることに期待しているのかもお見通しだった。
事は一刻を争う。
すぐに向かわなくてはならなくなった。

「京橋。たった今仕事が入った。」
「えっ!?何ですか、仕事って?」
寝耳に水の京橋は慌てて振り返り、普段から大きな目を更に広げて俺を見上げて来る。
「お前のクラブの後輩、山村翔悟の身に危険が迫っている。」
「えっ!山村に!?」
「同行していた須崎も山村の警護に当たるため暫く姿を消すことになるからクラブの企画の方は他の部員で穴埋めし直せ。」
「でもっ、…山村が…!?その、大丈夫なんですか?怪我とかっ…。というか危険って一体何の…?」
「詳しく説明している暇はないしお前を巻き込む訳にもいかないから言わない。とにかくすぐに自分のブースに戻って人員の穴埋めに努めろ。」
そう早口で捲し立てながらも俺は上に羽織っていたジャージを脱いで畳みベンチに置き、近くにいた別のマネージャーに少々抜けると言付けをして走り出そうとしていた。

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