ぼくの住処
◎[その箱を開けてはならぬ](1/24)
―夜8時少し前。
ぼくら親子は柏木さんの運転する車で市内にある高級ホテルのロータリーに乗り付けた。
二人揃ってばっちり正装で挑んだそのパーティーは、養父の昔の恩人の婚約披露パーティーだという。
ぼくは黒の三つ揃いにグレーのネクタイ、差し色にサーモンピンクのポケットチーフ。
髪は全て後ろへ流してセットしている。
対して養父はネイビーの三つ揃いにシャツはワインレッド、ノーネクタイにポケットチーフは白と来て伊達男風に決めている。
クセの強い長めのウェービーヘアは肩口で緩めに纏めて下ろしている。
気心知れた砕けた仲ならこんな装いも許されるのだろう。
それに加えて、今彼は手に大きなブーケを持っていた。
背が高くがっしりとした体つきの彼がそんな出で立ちでホテルのロビーに姿を現すと、まるでファッション誌の1ページを切り抜いたのかと思うほど様になっていた。
悔しいが、養父は見た目も中身も良い男なのだ。…悔しいが。

そんなこんなでエレベーターでパーティー会場のある最上階の展望テラスまで向かう。
「いいか、良正はただ適当に挨拶して、適当に相づち打って、適当に飯を食べていれば良いからな。」
「それで良いならぼくは気が楽で良いけど。」
「くれぐれも名前と俺の息子であると言う情報以外は漏らすなよ。今日ここに集まってる連中は報道関係、出版関係、他にも色々面倒な分野のが居るからな。」
「分かってるって。いつも通り、うまくやるさ。」
「良い子だ。」
そんな会話を短く交わして、エレベーターはポーンと音を立てて会場へ着いたことを知らせた。

―出来ることなら今日も神田さんの夕飯が食べたかった…。

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