ぼくの住処
◎[月の無い夜](1/21)
穏やかな朝だ。
早朝の柔らかな日差しが新緑に降り注ぐ様子が車窓から見えた。
ちらほら淡い桃色の部分があるが急な気温上昇のせいかほとんどが葉桜になっていた。
若葉が春の陽光を受けて伸びやかに生き生きと芽吹いていた。
まるで今のぼくの心を写しているような光景に胸が高鳴る。

今日は入学式だ。
ぼくは17歳になる年での入学になってしまったが、今日からは晴れて高校生になるんだ。

わけがあってぼくは8歳から12歳までを海外で義務教育はおろか母国語である日本語でさえあやふやな状態で過ごしていた。
12歳のある日、須崎家に養子として迎えられてからぼくは自分自身の異常さに気づかされ打ちのめされた。
本当の家族となに不自由なく暮らしていたあの日には決して戻ることは出来ないという現実に目の前が暗くなった。
精神的にも身体的にも成長期だった数年をサバイバル生活していたのだ。
取り戻せない時間が重くのし掛かることとなった。
ぼくが心に負ったキズはあまりに大きく、薬や酒の依存も簡単には絶つことが難しかったので帰国してからの長い時間はほとんどリハビリ期間として費やされた。
体を覆う大小様々なキズは完璧ではないものの最初の数ヵ月間で薄くなり塞がった。
養父となった須崎さんはぼくを献身的に支えてくれた。
普段は世界を飛び回っている業種の彼は、ぼくを迎え入れてから今日までなるべくそばに付いて導いてくれた。


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