甘いもの好きな高橋くん
オレンジジュース(1/12)
「…」
「……」
「………」
「…あのさ、さっきから何?」
「え、何が?」
「さっきからずっとこっち見てるでしょ。
何か用でもあるの?」
「え、私そんなに見てた!?」
「うん。すっごく。」
「あ、ごめん、ボーッとしてた!
気にしないで!」
「……わかった。」
高橋くんは不満そうに顔の向きを前に向けた。
ヒヤヒヤとした汗を拭う。
私も前に戻し、だいぶ進んでしまった板書を書き写した。
あー、ビックリした。
私、そんなに高橋くんのこと見てたんだ…。
見てたことをバレていた驚きからバクバクと鳴る心臓を抑える。
そんなに見てるつもり無かったんだけどな。
あの日から私は毎日高橋くんの観察を行っていた。
高橋くんの観察を行ったところで何も変わらないとは思うけれど、それしか確認する方法が思いつかなかった。
だけどまさかそんなに見てるとは思ってもみなかった。
もしかするとここ数日の観察もバレているのかもしれない。
…気をつけよう。
ここ数日間、高橋くんを観察した。
そりゃもうずっと。
ストーカーとして訴えられてもおかしくないレベルに。
それでも高橋くんは通報せず、気にしないふりをしてくれるらしい。
優しい。
数日間の観察結果を言うと、気づきは無かった。
見てたっていつもと変わらぬ感情だったし、相も変わらずムカついた。
やっぱり高橋くんなんかに特別な感情なんてないと思う。
それに特別な感情といっても、私が気にしていたのは茜が求めているようなラブロマンスではなく、もっと単純な…そう、この違和感を拭う答え。
あるはずがない。
あったらそれこそ天変地異の前触れだ。
「ここの問題を…鶴田!
お前、答えてみろ。」
「ヒエッ!?」
「何だ、奇声あげてもダメだぞ。
早く答えんか。」
今、授業中だったことすっかり忘れてた…!
今は生物だし、探せば教科書に書いてるはず。
ペラペラと教科書を捲り、答えを探す。
けれどもまずどこを聞かれているのかが分からないし、カタカナとか多すぎて訳が分からない。
ええーい、こうなったら目に付いた答えを適当に…!
「ホメオスタシス」
「えっ?」
突如聞こえてきた謎の単語に驚いて、隣を見る。
高橋くんは興味無さそうに頬杖をついたままだった。
もしかして…助けてくれるの?
…優しいじゃん。
「鶴田、分かったか?」
高橋くんの好意、ありがたく受け取るよ。
「ホメタス!」
「…は?」
「お前、何を言っとるんだ。」
「へ?」
「…バカなの?」
「だ、だって高橋くんがホメタスって…!」
「誰もそんな事言ってない。僕はホメオスタシスって言ったんだ。」
「はぁ!?滑舌悪すぎ。ホメオスタシスなんて聞こえなかったよ!」
「人の好意をここまで無下にする人初めて見た。
頭だけでなく耳も、性格まで悪かったんだね。
ごめんね、気づかなくて。」
「むっかつくな〜!!!
先生!席替えをしましょう!」
ビシッと手を挙げ、訴える。
それを先生は冷めた目で受け流した。
「俺はお前らの担任じゃねぇし、席替えをしたとしてもお前はど真ん中の一番前の席な。
そんでもって高橋は授業中寝すぎだから鶴田の隣な。」
「そんなの最悪度が増しただけじゃないですか!」
「ねぇ、さっきからずっとうるさい。
ちょっとは静かに出来ないの?」
「誰のせいだと思ってんだぁぁぁ!!!」
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