甘いもの好きな高橋くん
ザッハトルテ(1/13)
「鶴田さん、今日のシュークリームはどうだった?」
「いつも通り、美味しゅうございましたけど。」
「鶴田さん家のシュークリームとどっちが好き?」
「そ、そりゃウチのだけど。」
「分かった、ありがとう。」
高橋くんはにこりと笑うとスキップを踏みながら教室に戻っていった。
高橋くんが表情を崩すのが見れる瞬間は、私にとって今しかない。
別に笑顔が見たいとかはないからいいけど、この間茜から言われたことが妙に気になっていた。
『美優と話す時は、こう…表情が柔らかい?みたいな…。』
いつもは気にしない彼の表情も、茜があんなことを言うから今日はまじまじと観察してしまった。
そのせいで高橋くんから「僕の顔に何かついてる?」と訊かれてしまった。
じっくりと観察したのにも関わらず、高橋くんの表情の変化は読み取れず、結局茜の言葉は分からずじまいだった。
表情がどうのとか、どうせ茜の勘違いだろう。
気にするんじゃなかった。
おかげで高橋くんから変な人認定されたし。
『鶴田さんって前から思ってたけど変な人だよね』
この時ばかりは高橋くんはお菓子を貰っているときのような、最高の笑みを見せていた。
思わず手が出そうになったのを必死で堪えた。
去っていく高橋くんをじっと見る。
途中、女の子から声をかけられ、またお菓子を貰っている。
あ、笑ってる。
やっぱりお菓子を貰ってる時は表情が柔らかい。
でも私といる時はずっと無表情のままだ。
茜の目は節穴なのか?
まぁいいや。
考えてても仕方ない。
早く教室に戻ろう。
今日のシュークリームは中に苺が入っていた。
突然どうしたのかと聞けば『鶴田さんのお店、苺のシュークリーム出したでしょ?だから。』と言われた。
さすが甘い物好き。
リサーチが行き届いていらっしゃる。
お陰でもたれていた胃も、今日は幾分マシで、久し振りに美味しく食べることができた。
久し振りに、とか言ったら高橋くんに失礼に
なるんだろうけど。
いつもいつもとびきり美味しいものを毎日作ってる高橋くんにはどれだけの負担が掛かっているのだろう。
毎日毎日大変だろうなぁ。
たまには休めばいいのに。
それなのに、高橋くんがシュークリームを持ってこない日は未だ無い。
今のところ皆勤賞だ。
再来週から春休みだし、暫くはシュークリーム生活からは抜け出せるかな。
高橋くんだって長期休暇くらいはゆっくりしたいだろう。
あぁ、春休みは何しようかな。
お花見とかしたいなぁ。
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