甘いもの好きな高橋くん
ミルフィーユ(1/11)
高橋くんからシュークリームの味見係に任命されてからはや2週間。
私は健気にも毎日彼の手作りシュークリームを食べていた。
どうしてこんな事になっているのか。
思い出したくもないし、思い出そうとするだえで胃もたれしそうなのでやめておく。
とにかく私はクリームも見たくないほど食していた。
「毎日作ってくるのは大変だからせめて週2にしない?」と提案したのはシュークリーム4日目の時だった。
よく3日間頑張ったと思う。
だがさすがに4日目、高橋くんが教室に来た時は遠まわしに断った。
だって3日連続シュークリーム食べてるんだよ!?
しかも全部同じ味!
細かく言うと微妙に味は違う。
それは高橋くんが色々と研究した成果だとは思うがこちらからしてみればただのシュークリームだ。
しかも帰れば甘ったるそうなケーキがズラッと並んでいるし、夜にはその日売れ残ったケーキを食べる。
これでもたれない方がおかしい。
高橋くんからしてみれば天国のような空間だろうが私からしてみればかなり辛い。
毎日ケーキを食べるのさえキツかったのに最近ではそれプラスシュークリームだ。
もう飽き飽きしていた。
だが高橋くんは自身を気遣われたと思ったのか
「僕は作り慣れてるから大丈夫。」
と真顔で返された。
その真顔が恐ろしすぎて早く食えと圧力をかけられているのかと思った。
まぁいつもと変わらない真顔だったけど。
2月にしては珍しい、ポカポカとした暖かい日に当たりながら私は机に突っ伏した。
一つ前の席に座っている茜は暇そうに私の髪の毛を弄っている。
「もう辛すぎる…。胃が重い…。」
目の前にはシュークリーム。
もはや恒例になっていた。
「いいじゃん、高橋くんのシュークリーム食べれて。
今や誰も高橋くんのお菓子を食べれてないのに美優だけは食べれてるんだよ?
幸せ者すぎるって。」
「そんな幸せはいらないって。」
あれから高橋くんは本当にお返しを配らなくなった。
どれだけお菓子を恵んでもらっても翌日持ってくるのは私へのシュークリームだけ。
高橋くんがお返しをやめたことで減るかと思われた高橋くん宛のお菓子はほとんど減らず、以前と同じ量のお菓子を恵まれていた。
ここまでくると彼女達は高橋くん自身に惹かれているようにしか思えない。
というか実際そうなのだろう。
何がそんなにいいのか。
さっぱり理解できないけれど。
とまぁそういうわけで未だに高橋くんの手作りを食べれているのは私だけ。
茜は心底羨ましそうに言うが私としてはもう味見係は引退したい。
「もうシュークリームは見たくもなくなってきたよ。」
「でも、美味しくなってきてるんでしょ?」
「…まぁ。」
毎日味見を頼んでくるだけあって、彼のシュークリームは徐々に両親の味に近づいてきていた。
どうやって近づけていっているのかは知らない。
私だってアドバイスらしいアドバイスはしていない。
『ちょっと違う』『うちのとは違う』『うまい』
こんなことしか言っていないのだ。
ただ、少し違うのは確かだから毎回それだけは言っている。
何が違うのかは今もよく分かっていない。
その辺のことは専門的な事になるような事がする。
舌は肥えていても知識は肥えていない私にとって、その解決は無理。
「今日もどうせ、美味しいんだろうなぁ。」
いずれ食べなきゃいけないのなら早く食べてしまおう。
ラップを剥がし、齧る。
…やっぱり美味しい。
うちのとほとんど変わらない味。
でも、やっぱり少し違う。
「茜、食べる?」
「いいの?」
「もう1口食べただけでお腹いっぱいだし、高橋くんに返事できるくらいには食べた。」
「じゃ、いっただきまーす!」
さっき、高橋くんの手作りを食べれているのは私だけと言ったが細かく言うと私だけではない。
茜もそうだ。
シュークリームを全て平らげれるほど私の胃は強靭ではなく、最近では茜と半分こして食べていた。
高橋くんに失礼になってしまうかもしれないから高橋くんには秘密だ。
茜はほぼ毎日シュークリームを食べているというのに平気で平らげる。
私よりもケーキ屋の娘というステータスにぴったりな気がする。
「んー、美味しー!
美優のとこのシュークリームと同じくらい美味しいと思うんだけど、でもやっぱり違うの?」
「何となく、だけどね。」
溜め息混じりに答える。
シュークリーム生活からはいつ抜けられるのだろうか。
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