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「千愛は俺のものだ。余計な手出しされちゃ困るんだよ。…二度と千愛に近付くな」
約束、と言って俺の耳元で囁いた声は、その男からは聞いたことがないくらいに低かった。
“俺のもの”ね。別にどう思おうがあいつの勝手だが、自らあの女を裏切るような真似をした癖に何を言っているんだと馬鹿らしくもある。
他に女と関係を持ちたいならはじめから恋愛なんかしなければいいのに。身体だけの関係だと割り切れば、何の後腐れもなくやれるのに。
きっとあいつと自分とでは価値観が違うのかもしれない。そういう人間はいて当然だと思う。
合わないのなら関わらなければいいだけの話だ。
だけど、なんとなく、彼の言葉が気に入らなかった。
『智尋…』
あの二人と別れてから頭をよぎる、千愛の不安げな表情。先ほど会った彼女がそういう顔をしていたわけではない。が。
「あ、千愛ちゃんたちだ」
隣を歩く怜が見つけたのは、屋台通りの奥の公園へと抜けていく千愛と祐樹の姿だった。
自分の関係のないことに首を突っ込んで余計な面倒を被るのは御免だ。それこそ、他人の恋愛なんてもってのほかで。
だけど、あの俺を頼る瞳を面倒だと思ったことはない。
結局あの二人を追いかけたわけだが、悪い予感は的中した。
こんな屋外の暗い茂みの中で、浴衣を乱され、押し倒され、やめてと声を上げている彼女を見たら、さすがに良い状況ではないとすぐに判断できる。
ここで首を突っ込めば、もう完全に後戻りは出来ないだろう。
それがわかっていながら、俺は祐樹に声を掛けたのだった。
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