★one and only 後編 (1/63)
*
空港からスピードを出して首都高速を走る。
しばらくしてから、俺はCDのボリュームを少し大きくした。アルバムの曲をいくつか飛ばして、美香も知っているであろうメジャーな曲にする。
そんなこと、ただの気休めにもならないことはわかっていた。
信号がないから、止まって美香の顔を見ることも出来ない。だけど、実際面と向かって自分がどんなことを言うべきなのか、俺自身が一番分かっていなかった。
時々ぽつりと会話を交わしながら、上辺のやりとりをする。アメリカのこととか。仕事のこととか。
正直今はどうでもいい話。
そんな状態が耐えきれず、俺はアクセルを全開にした。
*
高速を降りて、俺は一旦、大通りから少し外れた公園に幅寄せをして停車をした。
美香が俺を窺っている気配が横から伝わる。CDの停止ボタンを押すと途端に、静かになる車内。
「美香」
俺は、美香を呼んだ。
俯いて、自分の膝のあたりに視線を落としている。
押し黙っている、その横顔から気持ちがこぼれるように伝わってくる。
こんな表情にさせているのは、紛れもなく俺自身。あぁ……俺は、大事なものを傷つけて、何をやってるんだよ。
「美香……話がしたいんだけど」
シートベルトをとって、俺は体を乗り出して美香を覗きこみ、もう一度彼女の名前を呼んだ。
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