[三章.由衣の挑戦](1/20)
「では来週、月曜に5月14日の地区大会に向けての選抜を行う。大会まで残り一ヵ月を切ってるが、全員、選抜に合格するつもりで本気でやるように」
「「はい!」」
放課後の練習が終わった後、コーチの連絡に応えて、女子バレーボール部員の威勢の良い返事が、体育館に響いた
「やっぱり、みんなすごいやる気だね、由衣」
凛は、いつもの様に一緒に部室に向かう由衣に話し掛けた
「…………」
しかし、由衣からの返答はない
「由衣?どうしたの?」
凛は、そんな由衣に何時か呼び掛ける
顔の前で手をひらひらさせる
「…………」
それでも、由衣からの応答はない
よく見ると、由衣の肩は少し震えている
「ゆ、由衣?」
「……ドウシヨウ…」
由衣は消え入りそうな声で呟いた
「え?なになに?」
「どうしよう、りんちゃん…」
今度は、まだ小さいがはっきりとそう応えた
「なにが?」
「あたし選抜のことすっかり忘れてた…」
「うん、さっきも言ってたね」
「最近調子悪いんだけど…まだ先だからいいかなって…」
「え、そうだったの」
「うん………」
凛は最近の由衣を思い返してみた
──────────
「由衣〜!!」
「ハーイ!!!!」
バシーンッ
「ナイスー!!」
ドガッ
「ナイッサー!!」
キュイーン
「ナイッセー!!」
──────────
とても調子が悪いようには見えなかった
「私にはむしろ調子いいように見えたんだけど」
「ちがうんだよ、練習で調子が良すぎると肝心なときに大きなミスの連続が起きちゃうの」
「由衣ってそんなジンクスあったっけ」
「ほら、この前の一年生歓迎試合の時も」
「ああ、あれか」
──────────
「イキマース!!」
トントンッ(ボールをバウンドさせる音)
タッタッタッ(足音)
バッ(ジャンプ)
バンッ(ボールを叩く音)
バキィッ(セッターの頭にボールが当たった音)
トッ、トッ、(セッターの千鳥足)
ドサッ(セッターが安らかに眠る音)
「「「セッタァァァァァ!!!」」」
サッ(脈を測る音)
「イキテマース!!」
──────────
「あの時も前日まで絶好調だったでしょ?」
「たしかに」
「あの後も、スパイクは大きく外れてアウトになっちゃうし、チャンスボールは明後日の方向に飛ばしちゃうし、あがったボールカバーしようとしたら別に来た子にタックルしちゃうし……」
「いつもの由衣を知ってる人はみんな唖然としてたね」
「いまでこそみんな笑ってくれるけど、一時期悪い意味で一年生の笑いの種にもなっちゃったでしょ」
「みんな由衣のことだめだめな人だと思ってたもんね」
「だから調子が悪いんだよ」
「調子が悪いっていうのはなんか違う気もするけど……」
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