そんなメイドは蟻原さんである
[02](1/2)
朝である。
目覚まし時計が鳴っている。
名門三鷹野家の長男を張る俺の朝は、決してメイドに起こしてもらうなどという始まり方をしない。

なぜか

それは女中の中の女中・蟻原嘉音が始めてこの家に来たとき、俺を叩き起こしたからだ。
そう、文字通り叩き起こした。
俺はその瞬間から蟻原さんの暴力的危険度を察知し、警戒することとなったのだ。
蟻原さんの危険度はなにも暴力的なことだけではない。あろうことかあの人、俺のベットの下の埋蔵金を全て消し去ってしまったのだ。なんと初日に。
初日から俺の天国をひとつ地獄へと葬りさったことから、俺はあの人に部屋への立ち入り禁止を命じた。

立ち入り禁止。
よくダメと言われるほどやりたくなるとか、そういうことを聞くけれど、あれはどうも俺には納得できない。
ダメなものはダメだし、いけないものはいけない。
俺から言わせてみれば、鶴の機織りを見てしまった爺さんなんて、どうも信用に欠けるヤツだと憐れみの対象になるだけだ。
どうもその辺り人間だから仕方ない特性だとかどうとか言う人の気持ちがよくわからない。
よくわからないという辺りも当たり前かもしれない。
なぜなら俺は蟻原さんの理解者ではないわけで、蟻原さんにもその一般的な人間の特性とやらが備わっていたからだ。
「語りすぎですよ、善生坊ちゃん。」
ほら、だってもうすでにここにいちゃってるんだもん。
言いつけもくそもない。ほんとに文字通りただ言ってつけただけ。
「蟻原さん蟻原さん虫原さん」
「こらこら善生ちゃん、義が抜けてますよ。ほんとにそこは大事ですよ」
「そうかい蟻原さん、ワラワラさん」
「それはそれで気持ち悪いです」
「そうかいそうかい、ワクワクさん」
「善生坊ちゃん、私は何も切りませんし、犬を連れて工作を楽しんだりもしません」
ぬぬぬ
さすが蟻原さん、唐突なボケにも華麗に対応する。
さながらアリのようだ。
「ところで蟻原さん、俺は君に立ち入り禁止だと命じたはずなのだけれど」
「立ち入ってませんよ」
「どうして?」
「3mm浮いているからです。」
「あんたはドラえもんかっ!」
おそらく俺は人間相手にこんなツッコミ、2度としない。



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