こぴぺ。

☆山祭(1/5)



久しぶりに休みが取れた。



たった2日だけど、携帯で探される事もたぶんないだろう。



ボーナスも出た事だし、母に何か旨いものでも食わせてやろう。そう思って京都・貴船の旅館へ電話を掛けてみた。



川床のシーズン中だが、平日だったから宿が取れた。



母に連絡を取ると大喜びで、鞍馬も歩いてみたいと言う。



俺に異存はなかった。



京阪出町柳から叡山電鉄鞍馬駅まで約30分。その間に景色は碁盤の目のような街中から里山を過ぎ、一気に山の中へと変化する。



また、鞍馬から山越えで貴船へ抜けるコースは、履き慣れた靴があればファミリーでも2時間前後で歩く事が出来るし、日帰りなら逆に、貴船から鞍馬へ抜け、鞍馬温泉を使って帰る手もある。



その日もさわやかな好天だった。荷物を持って歩くのも面倒なので、宿に頼んで預かってもらい、それから鞍馬山へ行った。



堂々たる山門を潜った瞬間、いきなり強い風が吹き、俺を目指して枯葉がザバザバ降って来る。



落葉の季節ではないのだが、母とくれば必ずこういう目に遭う。天狗の散華だ、と母は言う。迷惑な事だ。



途中からロープウェイもあるが、母は歩く方を好むので、ところどころ急な坂のある参道を歩いて本殿を目指す。



由岐神社を過ぎると、先々の大木の中程の高さの枝が、微妙にたわむ。毎度の事だが。
鞍馬寺金堂でお参りした後、奥の院へ向かって木の根道を歩く。



魔王殿の前で、一人の小柄で上品な感じの老人が、良い声で謡っていた。



“…花咲かば、告げんと言ひし山里の、使ひは来たり馬に鞍。鞍馬の山のうず桜…”



言霊が周囲の木立に広がって行くようで、思わず足を止め、聞き惚れた。



最後の一声が余韻を残して空に消えた時、同じように立ち止まっていた人たちの間から、溜め息と拍手が湧き起こる。



老人はにっこり笑って、大杉権現の方へ立ち去った。



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