砂を吐くほどに甘く
[episode3](44/44)
はるはそんな私を見て、可笑しそうに笑った。
「間抜けヅラ」
失礼な、って文句を言いたかったが声にならなかった。
目の前で笑うはるがあまりにも魅力的で、目を奪われてしまっていたからだ。
「そんなに固まるもンか?普通気づくと思うけどな」
不思議そうに呟き、首を傾げる。
だって、そんなまさか、はるほどの綺麗な人が私なんかを好きになるわけないと思ってしまうに決まってる。
好きと言った先ほどのはるの声や表情が、頭の中にずっと鮮明に残っているというのに、はるはどうしてそんなに普通なのだろう。
とても、告白してきたとは思えない。
はるは私の頬から手を離し、スックと立ち上がった。
「風呂沸かしてくる。今日はもう泊まってけ。…その足が治るまでいてもいいけどな」
その言葉に時計を見ると、もう23時近くだった。確かに、今から寮に帰るのは何だか大義だ。
ここはお言葉に甘えることにしよう。…というより、遠慮したところで一切聞いてもらえなさそうだ。
「…あ、ありがとう」
はるの顔を直接見ることが出来ない。不自然に顔を逸らしながら、お礼を言う。
それをからかうようにまた笑った彼は、ドアの方へスタスタと歩き出した。
「ま、待って!」
ドアに手をかける直前で、呼び止める。はるはきょとんとした顔でこちらを振り返った。
「あ、あの…返事、は…」
そう、告白の返事だ。
いくら私でも、好きだと言われてはいそうですかで終わるわけにいかないというのは分かる。
てっきり返事を催促されると思っていたので、歩き出したはるに少し拍子抜けだ。
はるは、「ああ」と思い出したかのように呟いて、
「別に、今すぐに欲しいわけじゃねえよ。今日はいろいろあって疲れただろ?千佳の気持ちの整理がちゃんとついてからでいい」
「…いいの?」
「頭ン中ごちゃごちゃのまま返事して、後悔されても困るしな。焦って答えを出す必要もねえから」
わかった、と私の口が動いたのを確認してから、はるは今度こそ部屋を後にした。
はるのその言葉に、何処か残念に思う私と、何処かホッとしている私がいる。
返事は、と自分から言っておいて、一体私は何て答えるつもりだったんだろう。
頭の中でまるで竜巻が起こっているかのように、ぐるぐると混乱している。まさにパンクしそうだ。
けれど…、もう薄々勘付いてはいるのだ。
はるに対するこの燃え上がるような気持ちはきっとーー。
episode.3熱情
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