砂を吐くほどに甘く
[episode2](1/28)
「ねえ、圭兄ちゃん。私さ、小さい頃、すっごい仲良かった友達とかいた?」
週明けだからか、あまり盛り上がりの見せないエトワールで、私はグラスを拭いている圭兄ちゃんに話しかけた。
圭兄ちゃんは一瞬固まって、ちらりとこちらを見てから再び手を動かす。
「藪から棒になんだよ。…まあ、そうだなあ。いた、かもな」
「なに、その曖昧な言い方」
「そっちこそ、急にどうしたんだよ。なんかあったのか?」
キュッキュッと軽快な音が耳に入ってくる。
私は今朝のことを思い出しながら、静かに口を開く。
「…夢、見た。なんか、あんまり鮮明には覚えてないけどアレはきっと、小さい頃の夢だと思う…たぶん、だけど。何だか、忘れちゃいけないようなことがあった気がして」
「…忘れちゃ、いけないこと…ねえ…」
「そう。だって私さ、夢から覚めてまだ意識がはっきりしてない状態で『あの約束、まだ覚えてるかな…』って呟いてたんだよ?何の約束なのかは勿論分かんないんだけど…」
すごく、すごく懐かしい夢だったと思う。夢の記憶って何でこうも曖昧にしか残らないんだろう。
ただ覚えてるのは、私の目の前がキラキラしてたってことだけ。あれは、何だったんだろうか。…誰、だったんだろうか。
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