僕はヤンデレを呼ぶ
[始業式](1/3)
「起きてくださーい。おーい、隼人くーん。」

おぼろ気な意識の中、うっすらと聞こえてくる。

「今日から高校生ですよー。はやくおーきーてー。」

昨日はあまり眠れなかった。明日から高校生だと思うとそわそわして寝付けなかった。
なかなか目を覚まさないでいると

「カーテン開けちゃいますー。」

カラカラーとカーテンレールが擦れる音と共にあったかい朝日が顔に降り注ぐ。ゆっくり目を開ける。

「やっと起きました!おはようございます隼人くん。」

「おはよう…。」

「もー、まだ寝ぼけてます。」

「昨日あんまり眠れなかったんだよ。」

よろよろと立ち上がると高校の制服が綺麗に畳まれてある。昨日の夜1回着て鏡で自分の姿を見た後にそのまま脱ぎ散らかしていた制服が。

「隼人くんもですか?実は私もなんです。今日から高校生なんて実感わかなくて新しく届いた制服1回着てみて変じゃないかとか気になって鏡で見てみたりとかしてたんです。」

脱ぎ散らかした制服で昨日の行動が筒抜けだったらしい。

「朝ご飯もできてますよ。冷めないうちに食べちゃって下さい。」

「もう僕も高校生だしそろそろ朝も来なくていいのに…。」

起き上がるとすぐに彼女はベッドメイキングし始めた。

「そうしていいですけど今日も私が来なかったら隼人くんお寝坊さんですよ?」

「ぐぐ…。」

返す言葉もなかった。

「それに冷蔵庫の中の食材もすぐに賞味期限切らしちゃうじゃないですか。この間まで洗濯も私がしていたのに。」

「洗濯はもう大丈夫、流石にそれを愛に任せるのはちょっとね…。あと賞味期限も少しくらいなら大丈夫だよ。日本の食品の安全基準は世界最高峰なんだ。」

「またそんな屁理屈言ってます。じゃあさっさと着替えてご飯食べに来てくださいね。一階でまってますから。」

そう言って部屋から出ていく。まるで母親のような彼女の名前は西崎愛、綺麗な長い黒髪が特徴的な女の子だ。僕とは幼馴染みで訳あって一人暮らしをしている僕をよくサポート、というかほぼ母親のように世話してくれている。というかしたがる。中学の時から家事全般をやってもらっている。もちろん洗濯もしてくれていて、制服やあろうことか下着まで洗濯してくれていたのだが流石にそれはまずいと思ったので洗濯ぐらいは自分でできるように修行した。案外簡単なものでこれならもっと早くしておくべきだったと後悔した。
新しい制服のまだ固い袖のブレザーに手を通し制かばんに必要なものをいれて一階へ降りるとたちまち食欲をそそる味噌汁の塩っけな香りが鼻をつく。

「すごく美味しそう。」

「毎日そう言ってくれるので私とても嬉しいです。」

味噌汁と卵焼きと鮭と白御飯、朝の王道、故に最強のフルコンボだった。どの食材からもいい匂いがして寝ぼけた体に風を通すが如く全身を循環する。

「いただきます。」

手を合わせ早々に食べ始める。

「はい、どうぞ。あまり早く食べると喉につまらせてしまうので注意してくださいね。」

とはいえ口にかきこまずにはいられなかった。卵焼きを半分口に含みその香りを楽しみながら最中にご飯を頬張る、炊きたての白米との絶妙なハーモニーを楽しんだあと鮭を食べるとこれまた白米が欲しくなる。最後には味噌汁で腹の中に全てを流し込む。思わず一言出てしまう。

「僕ほんとこの朝飯のために今日も生きてる。」

「大袈裟ですよ。でも私もすごく嬉しいです。作ったかいがありました。」

顔を赤くさせてこちらをじっと見ている。この光景も慣れたものだ。朝食の時は必ず僕の前に愛が座り僕が食べているのを眺めている。彼女は自分の家で朝食をすまし、僕の家に来てご飯を作ってから僕を起こしに二階の部屋までやってくる。その時にはもう既に昼のお弁当もできていて洗い物も終わっている。彼女の母親もいつも顔負けするぐらい家事も全てこなす。まさに完璧女子だ。朝食の旨さを噛み締めて、ふぅ、と息をつく。

「ほんと愛はいつどこにお嫁に出しても恥ずかしくないなー。」

言った瞬間、悪寒が走った。
(しまった!地雷を踏んだか!?)
恐る恐る彼女の顔をのぞき込むとさっきまで穏やかな表情だった彼女は無表情になりさらに目を見開いてこちらを凝視していた。

「お嫁に出す…?なにいってるんですか?私は隼人くん以外の人と結ばれる気はありませんよ?それに隼人くん言ってくれましたよね、『大きくなったら愛と結婚する。』…って。」

彼女の目から光が消えていた。中学に入学した時からこうなのだ、なにか彼女にとっての『地雷』を踏んでしまうと性格が突然豹変し過激思想になってしまう。僕はこれを『闇モード』と呼んでいる。慌ててフォローする。

「い、いや!ほら!ものの例えだよ!愛は立派なお嫁さんになるってこと!それにその約束したのもだいぶ前の話だよね!」

するとだんだん目に光を取り戻していく、顔を赤らめて頬に手をあてる。

「そ、そうですね。隼人くんのお嫁さんになるためにたくさんお掃除もお料理も練習しましたし…そう言ってもらえるとすごく嬉しいです?」

いや、そういういみじゃないんだけど。と言いかけたのをこらえる、ここで言ってしまったらまた闇モードに入ってしまうのは流石に僕でもわかる。残った朝食を流し込んだ。

「ごちそうさまでした。」

「はい、お粗末さまでした。それじゃ、行きましょう。」

高校の始業式、新しい生活の始まりに少し浮ついた気持ちを抱え家を出た。










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