森野探偵事務所物語【改】〜短編集第2幕〜
[第七話 秘密〜きっかけ編〜](1/8)
「くそっ!何が客だ!!うろちょろ嗅ぎ周りやがって!!」


つばを吐きかけるかのように毒をついた、無精髭を生やした男の手には、先が少し錆びたシャベル。
その先端には、先程ついたばかりである、赤い液体がポタリ、ポタリと滴り落ちていた。


彼の足元には、茶色のコートを羽織った人物。彼は、コートのポケットを何のためらいもなくさばくると、左のポケットから手帳を取り出し、まるで自分のものであるかのようにペラリと中身を見た。





「探偵だと…!?この!!野郎!!!」




男は怒り任せに、既に動かないそれに向かってシャベルを振り下ろした。



ゴン!!




という鈍い音…………。





頭が凹んだのだと、専門家でなくてもわかるような音であった。





「………随分と荒れているな。」


「っ!?誰だ!?」




そんな、噛み付くような声とともに男は勢いよく振り返ったが、すぐに顔色を変えてまるで化け物にでも会ったかのように呆然と立ち尽くす。




「な……………なぜ、あなた様がこちらに…!?」



「なぜ…………と聞かれてもな。先月からの支払いがまだだから出向いただけだ。……いや。あれから、もう月も変わっているから、先々月か……。」






顎に手をやりながらまるで独り言のように話した男に、無精髭の男は、ガバッ!!と頭を地面に擦り付けるかのように頭を下げる。






その土下座を、見下す男は何も喋らず次の言葉を待っていた。





「も、申し訳ありません!!資金がまだ足りておらず……今月には必ず支払います!!どうか…!どうかもう少しだけお待ちください!!必ず集めます!!」





「………そろそろ、その言い訳にも飽きてきた。今月末迄だ。それまでに用意出来なかったら………分かっているな…?」




鋭く光る眼光。
無精髭の男は、それを確認せずともブルリと身震いをしたが、すぐに口を開いた。





「分かっております!必ず!!支払います!!」





「………万が一これが警察にバレてみろ。俺は今後の場所も提供はしない。それどころか、お前の素性をそこに転がっているやつも提示して、警察に届け出る。」




それだけ言い残した男は、踵を返して立ち去った。




バタン。




と扉が閉められると、無精髭の男はギリッ!と地面を引っ掻くかのように力を込める。



「もっとだ…………もっと集めなければ……!」







なにかに洗脳されているかのように、男は絞り出すかのように声を漏らした。





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