碧姫
悲しいくちづけ(1/11)
しばらく顔を合わせてないと思えば、沖田さんは辛いことを乗り越えてたんですね。
彼の震える肩は段々熱くなっていた。震えるほどに私の体に伝わる。彼の熱も、じわじわと伝わっていく。
私の腰に回した腕も、抱きしめる力が強くなっていった。それほどに、彼が受けた悲しみは大きかったのだろう。
「…」
彼にとって“芹沢先生”は、相当大切な人だったのだろうか。私が死んでしまえば、彼はこうして肩を震わせてくれるのかな。
そこまで考えて、ハッとした。
「…何考えてるの、私。」
私は所詮、玩具じゃない。
ドッドッドッドッドッ
急に心臓が暴れ出す。どうして、どうして。
わかってるのに。
「…沖田さん。」
「…何。」
低くて掠れた、いつもとは違う彼の声。
その違いに思わず怯んでしまうけど、もう彼の肩は震えていなかった。腰を掴む腕の強さはそのままだけど。
「…私は、貴方の玩具のまんまですか。」
確かめずには、いられない。
そして、思考が沖田さんで占められる、この現象の正体を、目を逸らさずに知らなきゃいけないんだ。
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