Blissful Kiss 〜幸せのキスは約束の証〜
Chapter.3 分かっているつもり
Act.3(1/2)
高遠さんとの約束の日、私は待ち合わせよりも三十分早く駅に到着した。
というより、元々大学の最寄り駅だから、学校が終わってから駅ビルの中をウロウロしながら時間潰しをしていた。
やはりとは思ったけれど、高遠さんはまだ来ていない。
私は待たせることに罪悪感を覚えるから、高遠さんの姿がなかったことにホッとしていた。
指定の北改札の前で待っている間の私は、ずっと緊張をしていた。
緊張しないのがおかしいとはいえ、こんなにドキドキしてしまうとこのまま卒倒してしまうのでは、なんて大袈裟なことまで考えてしまうほどだった。
何にしても、気を紛らわせた方がいい。
そう思うも、特にやることも思い付かない。
結局、適当に携帯を弄るも、それでも緊張感から解放されることはなかった。
◆◇◆◇
しばらく携帯に視線を落としていたら、男性ものの黒い革靴が目に飛び込んできた。
まさか、と思い、ゆっくりと頭をもたげる。
「悪い、待たせてしまったね」
革靴の男性――高遠さんは、にこやかに私に声をかけてきた。
私は携帯を握り締めたまま、何度も首を横に振った。
「いえ、全然待ってません」
そう答える私に、高遠さんは、「嘘はダメだよ?」と肩を竦めて見せてきた。
「待ってる姿がずいぶん退屈そうだった。疲れてるだろ?」
「――疲れてないわけじゃないですけど……。でも、ほんとにそんなに待ってないです。時間潰しはいくらでも出来たし」
口にしてから、しまった、と咄嗟に思ったものの、もう遅い。
時間潰し、などとうっかり言うつもりはなかったのに。
でも、気まずくなっている私とは対照的に、高遠さんは、あはは、と声を出して笑った。
「それぐらい正直でいいんだよ。そっか、待ってる間に時間潰し出来たなら良かった」
「――すみません……」
「どうして謝るの? 別に悪いことなんてしてないだろ?」
「そうですけど……」
いたたまれない思いになっている私に、高遠さんは、「気にし過ぎ」と頭をポンポンと軽く叩いてきた。
「君は真面目なんだな。まあ、そういうところも俺は好きだけど」
好き、とサラリと言われ、私の鼓動は一気に高鳴った。
先ほどまでの待っていた間の緊張とは比較にならない。
もしかしたら、高遠さんにとっては大したことのない台詞かもしれない。
表情を覗ってみれば、相変わらずニコニコしたままだ。
これも大人の余裕というやつなのだろうか。
何となく、ちょっぴり悔しい気もする。
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