Blissful Kiss 〜幸せのキスは約束の証〜
Chapter.2 もっと知りたい
Act.3(1/5)
 バイトは予定通りに終わった。
 それから私は電車に乗り、家の最寄り駅から自転車に乗り換えて急いで帰った。

 ご飯は遅い時間ということもあって簡単なもので済ませた。
 お風呂もいつもよりも早く上がり、髪を乾かしてベッドの上で座りながら高遠さんからの電話を待つ。

 待っている間、緊張で何も手に付かなかった。
 何を話すか頭で考えるも、話題が全く浮かばない。
 そもそも、大学生の私と社会人の高遠さんでは住む世界が違い過ぎる。

 高遠さんはどう思っているのだろう。
 でも、優しいあの人のことだから、私によけいな気を遣わせないようにしてくれる気がする。
 それがかえって申しわけない。

 そのうち、携帯の着信音が鳴った。
 あらかじめ分かっていたとはいえ、先ほどにも増して緊張感が駆け巡る。

 私は深呼吸を数回繰り返し、電話に出た。

「もっ……、もしもし……」

 普通にするつもりが、かえって意識し過ぎて声が上ずってしまった。

 高遠さんももちろん気付いたに違いない。
 でも、そのことには全く触れず、『どうも』と穏やかな声音で返してくる。

『ごめんね。遅くなってしまったね』

「あ、えっと……、いえ……」

 自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。

 そこでさすがに高遠さんも電話の向こうで、『あはは』と声を出して笑った。

『そんなに構えなくていいよ。リラックスリラックス』

「はあ……」

『やっぱり無理?』

「えっと……、ちょっと……」

 また、馬鹿正直に答えてしまった。

『参ったな……。こっちは緊張させるつもりはないんだけど……』

「――すいません……」

『いやいや、謝らなくていいって』

 少し慌てたように言ってから、高遠さんは、『さて』と言葉を紡いだ。

『今日はどんな話をしようか?』

「どんな……」

 こっちに委ねられても、私も何を話していいのか全く分からない。
 とはいえ、高遠さんに丸投げしてしまうのも悪い気がする。

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