ネオヒューマン
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すべての毛穴が一気に冷やされる。
二人は天国と地獄の境目を越えた。
自動ドアが二人の背後で閉まると、うるさいセミの音がかき消え、代わりに静けさが耳の奥にこびりつく。
二人は玄関で靴を履き替え、清潔感あふれるエントランスを抜けて長い廊下に出た。

「まったく、秘密基地の数もこれだけあると、ありがたみがなくなるな」

「淵野辺の兄貴、まずいですって。そんなこと大々的に言っちゃ」

二人が今いる建物も、実はネオヒューマンの秘密基地だった。

「だってそうだろ。秘密基地の数だけ俺たちは雑用に回されるんだ。これぐらいの愚痴が出て当たり前だ」

二人は勧誘班特有の遊撃任務に勤しんでいた。さっきの草むしりも、その一環だった。さらに、他の秘密基地でも同じような雑用任務が待っている。

「それは、そうですけど」

「しかも、廃校になった学校を丸々買い取って、秘密基地に作り替えてるんだぞ。何も秘密になってないじゃないか。正気の沙汰とは思えないぜ」

二人は疲れた足取りで廊下を歩いている。
窓からの陽射しは、冷えすぎな屋内にはちょうどよく暖かい。
廊下の窓は、中庭からの陽射しを取り込む作りになっていた。

「言うようになりましたね」

二人の背後から声がする。
そこには柔らかな陽射しを受けた一人の男の姿があった。

「何でこんなところに...!?」

振り向いた淵野辺が、反射的に身を反らした。

「校長!? お、お疲れ様です!」

遅れて桜井も反応した。

「お二人とも、だいぶネオの考え方にご不満があるようですが?」

陽射しを受けた男の顔は、眩しそうに目を細めていた。だが、その表情は常日頃のものと、対して変わらない。
いつもの無表情を張り付けたまま、坂巻が二人のもとへとやってきた。

「いや、そんなことは一言も言ってない。な、そうだよな。桜井?」

「え!? あ、はい! 何も言ってません」

短い手足を身体に張り付け、桜井が大きな返事をした。

「まったく。相変わらずですね」

坂巻は無表情を崩さず、二人の横を歩いていく。
だが、すれ違い様に立ち止まって一言、

「そんなに嫌なら、たまには自由にしてみては?」

ネオヒューマンとしての任務を放って、遊び呆けてみろ。と言われているのかもしれない。
桜井は恐ろしくなったのか、首を横にふっていた。
だが、淵野辺の方は口を尖らせて、そっぽを向いていた。

「冗談ですよ」

桜井の反応が、あまりにも酷かったので、坂巻は安心させるために一言添えた。

「勘弁して下さいよ」

桜井の大げさなため息を聞き流して、坂巻が淵野辺に向き直った。
淵野辺は相変わらず、そっぽを向いている。

「不満を口にするのは勝手ですが、くれぐれも任務は手を抜いたりしないように頼みますよ」

「へいへい、了解しましたよ。校長先生」

そう言って淵野辺が睨み返すと、小さく鼻を鳴らして坂巻は歩き去っていった。


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