ネオヒューマン
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ホログラムはいつの間にか消えていた。メインスペースは、今やしわぶきの音一つとして、聞こえてこない。

不思議なことに、淵野辺たちの周りの空気は、メインスペースの端から端まで伝播していた。

そして、その静寂の波が全体に行き渡ったタイミングで、坂巻は静かに話し出した。

「なぜ、このような反応になるか、あなたは不思議に思うことでしょう。しかし、よく考えれば、すぐにわかるはずです。その答えは、我々ネオヒューマンとエンダーたちが、何を求めて戦っているのか、と言うことと、ほぼ同じことなのですから」

坂巻の話を聞いて、淵野辺が何かに気づいたように、顔色を変えた。

「そうか、そうだよな。あんたらとエンダーは、その”核”を奪い合ってるんだもんな...」

「その通り。やれば出来るではありませんか。ただし、彼らエンダーは、誰が”核“なのかを知らないのです。だからこそ、我々から情報を引き出そうとしているのです...。
しかし、そこまでわかれば、あなたが口に出さずに疑問に思ってきたことも、理解出来るはずです」

「なるほどな...」

坂巻の全てお見通しと言わんばかりの態度に、淵野辺は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
だが、内心では謎が一つ解けたことで、荷を少し下ろせたような心持ちもしていた。

要するに、情報が外へと漏れることを恐れていたのだろう。

この秘密基地に着いたときの二人の反応を、淵野辺は思い出していた。

「これで、我々がこの秘密基地について、シビアな考えを持たざるを得ない理由は、理解していただけましたね?」

坂巻は、念を押すように淵野辺を見据えていた。

「あんたらの反応の理由は理解した。だが、侵害だ。まるで、俺が情報を漏らすことを当たり前のように考えているじゃないか。
俺だって、悪に手を染めそうになったことがあるかもしれないが、世界を終わらせようとしている奴らに手を貸すほど、落ちぶれちゃいない。
都合のいい主張かもしれないが、もし俺が、あんたらの考えに賛同出来なくて、ここを去ったとしても、結局のところエンダーと接触しない限り、俺は自由にしていても構わないんじゃないのか?」

淵野辺の主張に坂巻は大きくかぶりを振った。

「それは大きな間違いです。後で説明しますが、あなたはすでに我々と接触した次点で、エンダーにも認識されているのです。そして、その事実はそのまま、あなたがエンダーに狙われることを確定事項にしています。
いくらあなたが、上手く逃げ延びても、必ずエンダーは見つけ出すのです。彼らの執念は計り知れない。
そして、エンダーに見つかった時点で、あなたがどんなに高潔な精神を持っていようとも、彼らに攻略されるのは明白です。
彼らの拷問に、耐えられるはずがないからです。それはどんな人間にも当てはまります。なぜなら、彼らはあなたが情報を吐かなければ、死んでもいいと思って永遠に拷問し続けるからです。
それは彼らに取って、マイナスにはならないのです。エンダーが勝たない限り、この時間は何度となくやってくるのですから。
仮にあなたが、一度だけ死を賭して約束を守ったとしても、彼らは必ずあなたの居場所を見つけて、次の巻き戻しが起こった瞬間に、すぐさま追っ手を差し向けてくるでしょう。
そうなれば、その地獄のスパイラルからは二度と抜け出せなくなります。
どんなに口が固いと言われる人間でも、永遠に終わらない拷問には耐えられるはずがない。そうでしょう? だから私はあのとき、あなたに覚悟が必要だと説明したのです」

坂巻の目は、なぜだかうっすらと涙ぐんでいた。




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