ネオヒューマン
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暗い暗い森の中だった。
湿った不快な空気が汗腺に粘りつくような気持ち悪さを感じる。
どこを見ても樹、また樹だった。
ここは富士の樹海。

樹木と樹木がうねるように絡み合う間を、蟻が這うようにして一人の女が歩を進めていた。

何度か転んだのか、服はすでに泥だらけに汚れていた。あまり身を着飾らない女なのか、いたって地味な服装だった。女らしいそれとは違い、露出が極端に少ない。

だが、それが樹海を歩く上で正解なのかもしれない。ただ、それはあくまで一般的な服装としてだった。

こんなところに女が一人でいること自体おかしかった。散策なら、もっとそれらしい服装はある。

明らかに異常だ。
見る人が見たら、きっと自殺を思い止まらせるだろう。
しかし、女の足取りは頼りないものの、何かの目的をもって動いていた。

「この辺のはず...」

女は独り言を呟きながら、辺りを見渡していた。

疲れたのか、女は樹木の根っこに座ってカバンから水筒を取り出した。
口につけて少し傾ける。
遠慮がちな飲み方だった。

根っこは成長し過ぎて、地面から飛び出すほど大きい。その根っこから伸びている樹木も、やはり巨樹と言っていいほど立派なものだった。

そんな巨樹の根本で、女が不意に空を見上げた。
空と言っても、上空はやはり、さすが樹海と称されるだけあって、樹木が重なりあっていて、空の青さなどほとんど見えない。

では、なぜ女は空を見上げたのだろうか。理由は簡単だった。探し物がそこにぶら下がっていたからだ。

「今降ろします」

女が水筒をしまいながら言った。
そこには、苦しそうに目を向いて、首に食い込んだロープを必死で外そうとしている男が、巨樹の枝からぶら下がっていたのだった。

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