ネオヒューマン
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二人は近くに停めてあった立花の車に乗り込んだ。
そして、いくつかの幹線道路を走り、徐々に人気の少ない田舎道へと車を走らせていった。

「おい、どこまで連れて行く気だ」

「そう言えば、フッチーさんは仕事してないんですよね?」

「こいつ俺の話し聞いてるのかよ...」

淵野辺は腹立たしげに小さく口の中で呟いていたが、すぐに立花の質問に答えた。

「今はな。いっつもちょうど仕事を辞めて、数日したところからやり直しになるから...」

歯切れの悪い答え方だった。

「また、強がっちゃって。前々回から気に掛けて見てたけど、やさぐれた生活しかしてなかったけどな。特に前回なんて、結構長いこと時間も進んでたし」

立花が悪戯な笑みを浮かべる。

「何でそんなこと知って...!?」

「それは後で話しますよっと。さあ、着いた」

立花がブレーキを踏んだ。
車はいつの間にか、小さな駐車場らしきところに進入していた。
寂れた沿道の潰れた飲食店がすぐ側にある。どうやらこの駐車場は、その店のもののようだ。だが、今は潰れているので、他に車の影は見えない。

「ここは...?」

「ネオの秘密基地ってところかな。それより、やっぱ仕事してないってのは、都合がいいや。それだけでフッチーさん、ネオ向きだよ」

立花が笑いながらシートベルトを外し、車のドアを開けて外へ出た。

「バカにしてんのか?」

淵野辺も後について外へ出る。
立花は潰れた飲食店の方へと歩き出していた。淵野辺もそれに倣う。

「まさか!? こればっかりは運だからね。フッチーさんはついてるんだよ。これから何度となくやり直されるたんびに、面倒な退職手続きをしなくて済むんだからさ」

後ろを振り向きながら、立花は歩いて淵野辺の質問に答えていた。
だが、次の瞬間その頭が勢い良く正面を向く。

「それは私への当て付けかね? 立花君」

廃屋のドアからいきなり長身の男が出てきた。

「いやだなぁ、サカさん。そう言うわけじゃ...」

「では、どういうわけなのかな? 詳しく聞こうじゃかいか」

長身の男は細身の身体に白衣を羽織って、腕を組んで立っていた。

「ちょっと勘弁して下さいよ〜」

淵野辺は立花のふざけた態度に業を煮やしていたので、この思わぬ天敵の登場に内心ほくそ笑んでいたが、その余裕もすぐに吹き飛んでしまった。

「それはそうと、あなたですね? 新しく覚醒してしまったビギナーと言うのは」

「いや、ビギナーだなんだと言われても、俺はまだ詳しい話しを何も聞いてないんだが」

「私の方は聞きました。この力を悪用しようとしていたと。まったくもって不届き千万。あなたはまず、詳しい話し云々の前に人としてのありかたを...」

長身細身の男の説教は止まるところを知らなかった。そのまま廃屋のドアの前で、延々と淵野辺は説教を聞かされていた。
それを横目で見ながら立花が笑いを堪えている。
それが余計に淵野辺を苛立たせていたが、目の前の男は、逆らうと面倒くさい人間であることは明白だった。
淵野辺はため息をグッと堪えて説教に身を委ねるしかなかった。


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