貧乏勇者サクセスト
[『フゴ王国』](32/32)
エスティはぶつぶつと独り言のようにつぶやく。
「ここにくるまで、こんな足跡は一切なかった。つまり木々を飛んだり、土に圧力を感じさせないほど高速で移動し、ここで立ち止まった……さらに、余計な足跡を残さずに、恐らく街のほうに戻っている……こんなことが出来る獣は……」
次の瞬間、エスティの脳裏にマッハパンサーの姿が浮かぶ。
「まさか、あの富豪の弓使い、キューピーもここに?」
エーイチは「へえ、あいつも来てんのか」と言った後、ふと、洞穴のほうに鼻を近づけた。
「……それにしても、この洞窟、なんか、くせえな」
「自分の体臭でしょ?」
「いや……このツンとした酸っぱい感じ。嗅いだことあるぞ。こりゃ油とか肉が腐った臭いだ」
「だからそれは、エーイチ、あんたの体臭じゃない」
エーイチが恨めしそうな顔でエスティを振り返る。
「臭い臭いって、おめえもここんとこ結構臭うぞ」
直後、エスティは剣の束の部分でエーイチの頭を思いっきり殴った。
そして「さ、行きますわよ、ユー」と言って、ソードラゴンとともに洞穴に向かった。
「ま、待てよ! 何怒ってんだよ! ボビ村じゃ普通だぞ!」
こうして、2人と1匹の冒険者はオーガの巣に向かった……。
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