黄色い糸
[病室A](1/1)


俺は彼女の顔を除き込んだ。


「止めてよ、恥ずかしいじゃない」あのときの彼女の声だった。


「腹話術?」俺の質問に彼女は「そんなに器用じゃないわよ」とこたえた。


「…テレパシー…みたいな?」


「良く分からないけど、そんな感じじゃないのかな、でも、6日目だよ、私が、おはようって言いつづけて」


「そんなに?」


「だから…おはようって」


「ああ…ごめん、おはよう」


「はじめまして、死神さん。初美っていいます。よろしく」


「こちらこそ、はじめまして名前は…」


「名前は?」


「…忘れた」


「えっ!……死んだら名前は必要ないってこと?それとも…おバカさん?」彼女は遠慮なく言って、そしてニコっと笑ったように見えた。


「何かに集中し過ぎると、他のことを忘れるってことあるじゃない。それみたいなものだと思う」俺は自分の名前を忘れていることに初めて気づいた。





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