黄色い糸
[病室A](1/1)
俺は彼女の顔を除き込んだ。
「止めてよ、恥ずかしいじゃない」あのときの彼女の声だった。
「腹話術?」俺の質問に彼女は「そんなに器用じゃないわよ」とこたえた。
「…テレパシー…みたいな?」
「良く分からないけど、そんな感じじゃないのかな、でも、6日目だよ、私が、おはようって言いつづけて」
「そんなに?」
「だから…おはようって」
「ああ…ごめん、おはよう」
「はじめまして、死神さん。初美っていいます。よろしく」
「こちらこそ、はじめまして名前は…」
「名前は?」
「…忘れた」
「えっ!……死んだら名前は必要ないってこと?それとも…おバカさん?」彼女は遠慮なく言って、そしてニコっと笑ったように見えた。
「何かに集中し過ぎると、他のことを忘れるってことあるじゃない。それみたいなものだと思う」俺は自分の名前を忘れていることに初めて気づいた。
- 13 -
前n[*]|[#]次n
⇒しおり挿入
⇒作品レビュー
⇒モバスペBook
[編集]
[←戻る]