私の居場所を狙うあの子
[また一歩前へ](1/3)

七海ちゃん


私を呼ぶ、穏やか声はお婆ちゃん。


風邪引かないようにな


仏頂面だけど、いつも私を心配してくれるのはお爺ちゃん。


おーい!鈴村ーー!


最初は険悪な仲だったのに

いつの間にか、親しみを込めて
私に取っ付いてくるのは湯川くん。


ほんと、そそっかしいよお前は


呆れ顔なのに
一番私を気にかけてくれるのは
幼馴染みのあの人で


「もう大丈夫よ」


遠い昔。

ひまわり畑で勢いよく転んだ私の頭を優しく撫でてくれたのは、お母さん。

いつも喧嘩して
啀み合ってる私達なのに

こういう時だけ
昔の情景がやたらとリアルに思い浮かぶのは

最後、だからかな?



「此処はね、お母さんの一番好きな場所なの」


太陽の光を浴びて

一面に咲き誇る橙色と
力強い色で彩るその花は

今も私が一番好きな花で

あの場所に二人で行けば

もう一度また、笑い合えるかな?



「此処はいつ来ても心が落ち着く」


お母さんに探してもらいたくて

余所行きの服を着ているにも関わらず
あちこち走る回る
私にお母さんは捕まえたと

私を後ろから抱き締めて

必ず最後にそう言ってた。


ねえ、お母さん。

いつまで私達は空回りして 、お互い素直になれないのかな。

私はお母さんのことが嫌いなくせに

向日葵の蕾が咲く頃には

二人でまた見に行きたいって
ずっと、そう願ってる。


お母さんなんて大嫌いなのに

きっと他人が悪口を言えば
心底腹が立って

今日だって送って行ってくれなかったくせに

面倒臭いって
あれだけ小言を言ってたのに

大きなお弁当箱に自慢の卵焼きと

歪な形をした
オニギリを詰め込んでくれていた事を

私はちゃんと知ってる。


だからだよ

何度も嫌になって、ムカついて

それでもやっぱり元に戻って

諦められなくて


今だって、本当に死ぬかもしれないのに
一番会いたいのは

一番意地悪なお母さんなんだよ。


会いたいな。

最後にお母さんの得意な卵焼き
食べたかった。

きっと美味しいのに
美味しくないって強がって言いそうだけど

ありがとうって。

馬鹿な娘でゴメンねって

お母さんの隣で胸を張って歩ける
自慢の娘になりたかったよ

そう最後の最後に、伝えたかった。


- 82 -

前n[*][#]次n
/183 n

⇒しおり挿入


[編集]

[←戻る]