私の居場所を狙うあの子
[学校行事](1/6)

「それじゃあ行ってきます」


非常食や、救急セット。

バスタオルに日常用品。

ついでに言うと
キャンプで作るカレーの材料まで
詰め込んだ鞄と私を乗せ

朝早くから家まで迎えに来てくれた
祖父母に一言お礼を告げると

力任せにドアを閉めた。



「本当に此処でいいの?」


「うん。バスだってちゃんと停まってるでしょ?」


学校ではなく
市民会館前に停滞するバスを指差して

一度は地面に置いた
重たい鞄を肩にぶら下げる私を
心配そうな眼差しで見つめているのは

私のお婆ちゃん。

家から出て行くのが面倒臭いと
私の頼みをすんなり断った

あの人の生みの母親とは思えない程だ。



「お爺ちゃんもありがとう。送ってくれて」


「ほら、早く行きなさい」


「もーこの人ったら、相変わらず無愛想ねえ」



人と喋ることが大好きで
笑いジワが素敵なお婆ちゃん。

人と関わるのは苦手だけど

本当は誰よりも心配症で

優しいお爺ちゃんは
お似合いの夫婦で

見てるこっちまで微笑ましい。



「じゃあ、行ってきます」


二回目の言ってきますを伝え

少しヨタつく足で
クラスのバスまでゆっくり歩いて行くと

少し前の方で
あの三人が仲良くバスに乗り込む姿が見えてしまった。

やっぱり、仲はいいよね。

そうボンヤリしていると

急に後ろから肩を叩かれる。


「よ、鈴村!」


っ、ビックリした


「お前昨日眠れたか?俺なんて大人だからよ〜熟睡しちまったぜ!」


先生にこっぴどく叱られ
生徒指導室にまで
呼び出されていたにも関わらず

赤髪が太陽に反射して
よくわからない髪色をした湯川くんは

目の下に私より酷いクマを作っていて

ああ。
一睡も出来なかったんだ。
楽しみすぎて

そう突っ込んでいいのか
ダメなのか

気を使う相手でもないのだけれど

何となく、選択に困るわけで。



「それより何で学校じゃないんだろうね?」


「そりゃ〜あれだろ?大人の都合ってやつ」


あっそ。」


「んだよ〜テンション低すぎな!キャンプと言えど、大事な学校行事なんだからよ!

ぼ、俺達学級委員がしっかりしないでどうするんだ!あ。違うどうするんだよ!」


何でもいいから口調は統一しようよ。」



朝から湯川くんと絡むのは少し

いや、かなり疲れる。

それに暫く放置しようとしても

ラインの登録出来たのか?

サッカーの約束忘れてないだろうな

三人で放課後残るんだぞ


いや、あのね?

放課後も何も、今からキャンプですから

放課後なんてありゃしませんよ
湯川くん。

そう言いたい気持ちを抑え
バスの運転手さんに荷物を預けると

あからさまに表情が変わり

何故か私の体型を舐め回すように見られると

次第にそれは納得した顔になって

少し失礼ではないかと
文句を言いたい。



「それより湯川くん。先に行ってくれない?」


「何でだよ?」


なんでって、それは



ただでさえあの一件で
私達が付き合っていると勘違いしているクラスメイトが沢山いるのに

二人一緒だなんて

かと言って

窓に顔をベッタリくっつけ

少し高い位置から私達を見下ろす輩が
いる事からして

もう手遅れだけど



「鈴村の言いたいこと、何となくわかる気もするぜ」


湯川くん」


「でもな。俺達はバスの席順も隣同士だし、このままでいいじゃん」


「はあああ!?」


「はあってあ、そっか。確か鈴村が教室出て行った次の休み時間に決まった事だもんな」


「ちょっと!何勝手に大切なこと決めてるの!?」


「知らねえよ。文句なら夕月さんに言えっての!」


夕月さんが、決めたの?」


「そうだよ。あいつ、絶対俺達のこと邪魔者扱いしてるからな!」


違うよ、それは


「違うもんか!現に僕の発言に真っ先に賛成したのは夕月さんだろ!?」


でもあの後、謝ってくれたもん!」


「そんなのはお前を油断させる罠だ!僕にはわかる!」


「何がわかるの?湯川くんは。何もわかってない!」



人目をはばからず
言いたいことを言う私達に

バスの運転手さんは何か言っていて

それでもお互い頭に血が昇っている私達は
そんなことお構い無し。

結局、その場で担任にこっぴどく叱られては

お互い無言のまま席に着き

周りは楽しそうに雑談しているのに

私はちっとも、楽しくなかった。


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