【解体屍書】
[第3話『骨の鳴る夜』](1/1)
安い部屋だったから何かあるなとは思っていたんだ。
だって、駅から近くてこの値段はおかしいだろ?
だから幽霊か何かが出るんだって始めからわかってた。

それはいつだったか、俺がその部屋に引っ越してきて数日が経った日のことだった。
俺は金も無いし節約するには早く寝ることが一番だって思ったから、まだ21時なのに布団の中にいた。
その時ガラガラって窓を開ける音が聞こえたんだ。
部屋には俺一人しかいない。
隣の部屋の奴が窓開ける音が聞こえるなんておんぼろアパートだなと思いつつしばらく寝ていると

ボキッ

と不吉な音が外から聞こえてきた。
まるで骨が折れるみたいな音だ。
いや、そのものだろ!と思って窓を開け放ち下を見た。

そこに死体は無かった。
血の跡もない。
じゃあ、さっきの音は何だ?
まさかキン肉マンじゃあるまいし腰の骨が鳴りやすいなんて馬鹿げた理由でもないだろう。
訳が解らなかったが、俺はそのまま寝ることにした。
そういえば今日は満月だったなと思いながら。

その日もまた満月だった。
ガラガラって窓が開く音が聞こえた。
その時俺はカップ麺を食べていたのだが、音は自分の部屋から聞こえた気がした。
でも、当然窓は閉まっている。
俺は「ああ、そういうことか」と納得した。
これが安い理由なのだ。
つまりこの部屋は『出る』ってことみたいだ。
しばらくしてまた

ボキッ

と骨が折れる音が聞こえた。
俺は不思議に思った。
どうしてだか幽霊が窓から落ちるのにタイムラグがあるのだ。
何故だろうと思って窓の外を見ると今日もまた満月だった。
それは見事な真ん丸の月。
まるでお伽話に出てくる月みたいだ。

「お前も死ぬ前はこの月を見ていたのか?」
俺は一人、そう呟いた。
この幽霊からはどうにも恐怖を感じない。
むしろ、親しみすら沸いて来るのは何故だろうか?

「月でも掴んでみたくなったか?
詩人だな、お前」
窓が開く音が聞こえた時、俺も見えないそいつと月を見る。
そうした夜はいつだって満月だ。
魅惑的な月が俺を誘っているようにも感じるが、あいにく俺は詩人じゃない。
感受性なんてあっても腹は膨れない。
ボキッと音が鳴った時、俺の腹がグゥと鳴った。

あーなんだな。
なんか空気壊して悪いな。
<骨の鳴る夜・完>

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