【解体屍書】
[第1話『耳鳴り』](1/1)
「…ッ」
突然の耳鳴りに俺は顔をしかめた。
耳鳴りってのは何度体験しても慣れない。
この独特のキィーンって感じが嫌で嫌で堪らなかった。
キィィィ
まだだ。
まだ聞こえやがる。
俺は耳を手で押さえてみたがいっこうに止まる気配は無かった。
キィィィ……よ
「え?」
思わず俺は呟いた。
道の真ん中で立ち止まり変な声を出した俺に道行く人たちが奇異の目で振り返る。
俺は道の端に立つと耳に意識を向けた。
今、耳鳴りの中に確かに人の声が聞こえたのだ。
キィィィ……ねよ
やっぱり!
俺はより耳に意識を集中させその声を聞いた。
キィィィ……
だから死ねって言ってるんだよ
「え?」
その声が聞こえた時、俺は誰かに背中を押された。
そして、道の端に立っていたのがいけなかったのだ。
押された俺の体は車道に飛び出し転がった。
アスファルトに皮膚を削られ激しい痛みに脳が焼け付く。
車道に投げ出された俺は甲高いブレーキ音に鋼鉄の塊の到来を予見する。
もう耳鳴りは聞こえない…
<耳鳴り・完>
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