いい男 (1/9)
「――――あれ?」
乗りかごから降りてみると、果怜たちの姿がない。
ベンチにも姿はないし、あたりを見渡してもどこにもいない。
あいつら、どこ行ったんだ……?
「……あ、果怜ちゃんたちいたよ」
「え?」
花宮先輩の言葉に、くるりと体を半回転させる。
俺の視線の先に見えたのは、観覧車から降りてくる二人の姿だった。
……なんだ。
あいつらも乗っていたのか。
乗りたくないような雰囲気を見せておいたくせに。
「…………」
「……おうちゃん?」
花宮先輩の声は、もう聞こえなかった。
無意識だった。
俺の足は、一直線に翼宿の元へと向かっていた。
「果怜先輩、足元に気を付けてください」
「あ、ありがとう、翼宿君……」
翼宿は果怜に手を差し伸べて、観覧車の乗りかごから優しくエスコートする。
果怜は一瞬迷いながらも、その手をそっと取った。
まるで王子様とお姫様だ。
悔しいけれど、お似合いだった。
…………それを言ったら、おしまいなんだろうけれど。
「…………翼宿」
「ん?」
俺の声に、ゆっくり振り向く。
「――――話がある。」
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