午後五時のジンクス (1/10)
「…………」
「…………」
無言。
沈黙。
静寂。
他に言葉が見つからないほどに、俺たちの間にはそれだけしかなかった。
頂上までは、あと五分といったところか。
現在の時刻を、携帯の画面を開き確認する。
――――四時五十五分。
ぴったりだ。
ちょうど、てっぺんに着く頃には運命の時間がお待ちになっていらっしゃる。
本当、見計らったような展開。
…………ああ、見計らったんだったな。
忘れてた。
「……おうちゃん」
「…………」
「……おうちゃん、なにか喋ってよ」
ひたすらに外の風景を見続ける俺の姿を見て、花宮先輩は耐えきれなくなったようだ。
俺に声を掛けてきた。
『……ああ』と小さな声で返事をすると、花宮先輩は頬をぷうっと膨らませた。
「おうちゃん、やっぱりなんだか苛々してる」
「……そんなことないですよ」
「そんなことなくない」
子供のような言い回しを使って反論する彼女に、ふっと笑いが込み上げる。
横目でちらりとその姿を見れば、まだ頬を膨らませていることに気が付いた。
「……果怜も、怒るとそうやってすぐに頬を膨らませるんですよ」
「…………え?」
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