天使の想いと告白 (15/16)
「おうちゃん。」
静まり返ったこの室内に、いきなり彼女の声が響き渡ったから、思わず肩をびくりと揺らす。
花宮先輩の瞳が、しっかりと俺を捉える。
じり、と一歩近付くその足に、俺はまた、じり、と一歩後ろに下がった。
なんとなく、警戒してしまう。
女子じゃないんだから、と自分でも突っ込みを入れたくなるくらいの、この厳戒体制。
でも、もしまたさっきみたいに襟元を掴まれて、強引なキスをされたりしたら…………。
きっと、俺はもう理性を抑え切れない。
そこにはやたらと自信がある。
だからここは、慎重に相手の出方を見る必要があった。
「…………なんでしょう」
思ったよりも低い声が出る。
真剣な表情をして俺を見つめる花宮先輩は、右手の人差し指を立て、ずいと俺の目の前に差し出した。
無意識に体が後ろに反れる。
なんだ、それは。
花宮先輩の行動が、何を意味するものなのかまったく分からず、首をかしげる。
人差し指の奥に見える彼女の表情は、見たこともないほどに凛としていた。
「…………これ、ありがとう」
「こ、これ……? あ、ああ、手当のことですか。それなら、別に――――……」
「あと、もうひとつ。」
まだ何かあるのか。
警戒心は解かれないまま、二人の距離をなるべく一定に保つようにと心掛けつつ、俺は彼女の声に耳を傾けた。
「――――私にもまだ、希望はあるんだよね?」
力強い眼差しとその言葉。
それが、無数の細い針になって俺の胸を突き刺した。
くるりと踵を返すと、花宮先輩はそのまま無言で部屋を出ていった。
残された保健室に、ひとり途方に暮れる俺。
…………意外に、肉食系女子だったんだな。花宮先輩って。
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