涙は心の中に、思いは瞳の中に。2
[第五章](1/20)
なんで俺、組織の一員なんかに説教してる?
あれからいろいろ吐いてぶつけて、俺のことなんか忘れて全部ぶちまけた。




「……なぜ、俺にそんなこと」




「失うものは何もないって言ったな。両親は友達は! 俺には友達も同僚も仲間もいる。父親だって……虐待されたって俺にとっては一人の父親だよ。俺より仕事しか見えてない。家出るときだってろくに話もしない。親子なのに互いに逃げてばっかだ。親戚には厄介者扱いされて、それから寄り付かなくなった。俺の知らない間に11歳離れた弟がいる。謝らなきゃいけない恩人がいる。ここにいて待つのは死だけ! 後悔しないようにって言ったならお前も責任も持て!」




「……何が出来ると? 今さら、元の生活に戻って何が」




「人生は一度きり。悔いのない生き方をしろよ。お前がここにいたい理由があるなら止めねぇし好き勝手すればいい。抜け出せる方法があるなら俺はそれを見つけて抜けてやる」




逃げ道は、きっとある。あるって信じたい。




「逃げられると思うか、俺でも」




「組織内部のことを知ってるお前が俺に協力すれば月詠と逃げられる」




裏切り者が誰かなんてわからせない方法。




「利用して最後は消すのか」




「消すか」




「システム内部に入るのがどういうことかわかってるのか? 監視カメラは至るとこにあるんだぞ」




「月詠には優秀な破壊魔が二人いる。少しずつ破壊して混乱させたあとで、監視室にいるやつらを破滅させる。俺を誰だと思ってんだ?」




「うまくいけばの話だろ。いかなかったときはどうする気だ」




「組織を敵に回してでもチームを装って抜け出すさ。お前が監視しろよ」




「俺が裏切ればお前らの命はないことを忘れるな」




そう吐き捨てて病室を出ていった。
裏切る、ねぇ。あんたはしないと思うな。絶対な。




「喋りすぎた……」




なんであいつに父親のことなんか。父親に褒められることなんかなかった。
テストで100点取ろうが何しようと出来て当然のような振る舞い。褒められた記憶はない。

俺もそれからまともに笑えなくなった。

反抗的になろうとして、そうか。俺、あの人に気づいてもらいたかったんだ。かまって欲しくてあんなこと。
でもあの人は応えてくれなかった。保護者代わりの宮間だけ……。父親らしいってなんだ。あんなんでも父親だなんて、俺思えてた?




「リーダー……?」




弱々しい声は……どっちだ。いなくなってからどれくらい経つ?




「意外だな……お前が見舞か」




「い、いいでしょ!? 別に……。心配するくらい」




「なんの心境の変化だ?」




「僕を助けたりするからだよ。だから綾瀬ときたんだ……」




「……恭介? 悪かった、木崎」



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