季節物語り
[‥二度春の章](1/2)
…あれ以来、男は私の目の前に現れることはなかった。
そのまま五年が経った。
桜の蕾が膨らむ春の日、私の家に老婆が来た。
「御免下さい」
老婆はあの男と同じ苗字を名乗った。男の事で話があるそうだ。
「先日息子が死にました。
それで…息子の部屋を整理していたらこんなものが出て来たんです…」
そう言って老婆―もとい男の母親は、一通の手紙を差し出した。
それには宛名に私の名前が記されていた。
封筒を破り中の便箋を開くと、一番最初には『遺書』と記されていた。
丁寧に書かれた文字や便箋の色褪せ具合から、かなり前に書かれたものだと判った。
しかし内容は姉に宛てたものであった。恐らく姉が自殺する前に書いたものなのであろう。
男の母親に連れられ男の家に行った。私の家よりも大きく、特に庭が広く手入れが行き届いていた。
そして家の奥の部屋に通された。部屋には誰も居らず、しんと静まり返っていた。
―二度男は私の目の前に現れた。しかし前とは違った形で…男は亡骸だった。
真っ白で痩せ細った身体がぴったりと棺に収められていた。
ふと振り返ると、男の母親は涙をハンカチーフで拭っていた。
「…わざわざお呼び頂き有難う御座居ました」
私はそっと男の顔を見送った。
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