季節物語り
[‥春の章](1/4)
ある朝。
櫻は私を見下ろしていた。
私は櫻を注意深く、そろそろと見上げた。
薄紅の花弁が、ひらひらと目の前を舞う。
その花弁は私の手中に収まったかと思えば、一寸の風で二度目の前を舞った。
「皮肉なものです」
卒然に、知らぬ男の声がして慌てて振り返った。
「何方様でしょうか」
「お気になさらず。
櫻を愛でる貴方を見て、つい声を掛けたくなったのです」
その男とは、渋い深い緑の普段着に、黒い帯と羽織をしていた。
「それよりも、櫻の花弁とは皮肉なものですよ」
「皮肉?
こんなに美しいものが」
「ええ」
「…何故?」
男の目は、眼鏡の硝子越しに、今度は名残惜しげにさえ見えるように落ちる花弁を、捉えていた。
「櫻の樹は、何かしら生き物の血を得たことで、その花弁を薄紅に染めているそうですよ」
「……」
知らぬ男の怪しげな言動ではあったが、その時の私には、何かが囁きかけているように思えた。
私が言葉を発する前に、男は話を進めた。
「私が、ある書で見た話ではあるのですがね…」
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