色褪せたバラ
第 1 6 章 1/9
――――――――
――‥‥ ‥
「‥‥きて‥‥お‥‥て‥」
遠くで声がする。
そして背中のズキズキとした痛みに俺はだんだんと思考が呼び覚まされていく。
「起きて、直樹さん。」
俺はゆっくりと
重たい瞼をこじ開けた
視界に広がるのは眩しい朝の光とそれに負けないぐらい輝かしい、彼女の姿。
「おはよう。」
「‥‥おはよう、美羽。」
目の前の頬を手の平で摩ると美羽は愛くるしい表情で笑った。
――――‥‥。
俺は目が覚めてもずっとベッドの上で美羽を抱きしめていた。
一晩中くっついて眠っていたからか、美羽の身体はぬくぬくと気持ちがいい。うっかりしていると二度寝しそうになる。
「直樹さん。もう時間でしょう‥?」
恐る恐る、腕の中の美羽が俺にそう問い掛ける。俺はゆっくりと視線を壁の時計に移した。
時計の針は昼前を指していた。
‥‥随分寝てたな。
てっきり朝日だと思っていたこの光は、実は天まで昇った太陽の熱い日光だったらしい。
「‥‥直樹さん。」
美羽は催促するように俺の名前を呼ぶ。‥‥あぁ、だから起こしてくれたんだな。
もうすぐ
外回りの時間だから‥‥
俺はもう一度美羽の身体を抱きしめた。すると美羽は不安そうに顔を上げる。
「‥‥行ってくる。」
本当は行きたくなんてない。美羽以外の女なんて触りたくない。
‥‥けれど、前に進むと決意した美羽にそんなこと言えるはずもない。
初めから俺に行かないなんて選択肢はないのだ。
腕の中の美羽は俺の言葉を聞いて柔らかな微笑みを浮かべていた。
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